脅かされるエイズ予防の成功

ウガンダ(下)

 同性愛禁止を強化する法律をめぐり、オバマ米政権から制裁を受けたアフリカ東部ウガンダは、奔放な性行動を抑制することでエイズウイルス(HIV)感染率を大幅に低下させたことで知られる。そのウガンダが圧力の標的となったことは、「性の自由」をめぐる文化戦争の象徴的な出来事といえる。

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2014年8月、米国務省でウガンダのヨウェリ・ムセベニ大統領(右)と会見するジョン・ケリー国務長官(同省提供)

 ウガンダでは1980年代にHIV感染が爆発的に拡大するが、ヨウェリ・ムセベニ大統領が強力に推進した「ABCプログラム」と呼ばれる予防策が大きな効果を挙げる。

 ABCプログラムとは、①アブスティネンス(結婚まで性交渉しない)②ビー・フェイスフル(夫婦間の貞節を守る)③コンドーム(危険な性交渉ではコンドームを使用する)――の三つの柱から成る、性の自己抑制に比重を置いたエイズ予防策だ。

 ムセベニ氏は拡声器を持って各地を回り、国民に直接、危険な性行動を慎まなければ死が待っていると訴えた。海外援助組織はコンドーム普及を推進したが、ムセベニ氏は「薄いゴム片がエイズの潮流を止める中心手段にはなり得ない」とし、コンドーム使用はあくまで「最後の手段」と位置付けた。

 国連合同エイズ計画(UNAIDS)のデータによると、ウガンダの15~49歳のHIV感染率は、世界第2位だった1990年の13・1%から2004年には6・5%へと半減した。これに対し、コンドームが普及したアフリカ南部ボツワナは、感染率が1990年の6%から10年後の2000年には26%へと急増。今も20%台で高止まりしている。対照的な両国の推移は、コンドームよりも性の自己抑制を重視した予防策が効果的であることを如実に示すものだ。

 だが、オバマ政権による同性愛を正常で健全な行為と見なす文化・価値観の押し付けは、ウガンダの成功を台無しにする可能性がある。同性間の性行為はHIV感染リスクが極めて高いことに加え、「性の自由」を許容することで、ABCプログラムの柱である純潔・貞節の意識が薄れ、AとBのないCだけのエイズ対策、つまり、コンドーム中心の予防策になってしまうからだ。

 ABCプログラムはこれまでも、性の自由を支持する勢力から組織的な攻撃を受けてきた。そうした影響もあり、ウガンダで徐々に広がりつつあるコンドームでエイズを予防できるとの認識が「国民のガードを低下させ、危険な行為に走らせる」(同国政府高官)状況が生まれているという。実際、ウガンダのHIV感染率はわずかだが増加傾向に転じ、近年は7%台で推移している。

 ABCプログラムの次は同性愛問題で、バッシングの標的となったウガンダ。いずれも性の自由を制限しようとする政策が、欧米のリベラルなエリートたちの強烈な拒否反応を生みだしているのだ。

 「われわれがエイズを倒さなければ、われわれがエイズに倒されてしまう」。ジャネット・ムセベニ大統領夫人がこう主張するように、エイズとの戦いは国民の生死を懸けた問題だ。エイズ拡大のリスクを無視して同性愛を受け入れさせようとするのは、無責任としか言いようがない。

(ワシントン・早川俊行)