「国益に寄与」は本当か、世界各地で反米感情を煽る

オバマのLGBT外交 米国と途上国の「文化戦争」(15)

 米ホワイトハウスが2014年6月に初開催した「国際LGBT(性的少数者)人権フォーラム」で基調講演したスーザン・ライス国家安全保障担当大統領補佐官は、LGBTの権利向上を重視する理由について「米国の道義的義務であり、国益だからだ」と強調した。ライス氏が中心になって取りまとめた昨年2月の「国家安全保障戦略」にも、米国はLGBTの「擁護者」となることが明記された。

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スーザン・ライス国家安全保障担当米大統領補佐官(UPI)

 つまり、LGBTの権利向上はオバマ政権の安全保障政策の一部でもあるのだ。だが、これは本当に米国の国益や安全保障に寄与しているのだろうか。

 在パキスタン米大使館が11年に同性愛者らを招いてLGBTを祝うイベントを開いたことは、抗議デモを引き起こすなど激しい反発を招いた。同国最大のイスラム政党は「パキスタンに対する最悪の社会・文化的テロだ」と非難。イスラム教国家の国民感情はテロを誘発する要因になり得るだけに十分な配慮が必要だが、自ら反米感情を煽(あお)っているのである。

 12年に起きたリビア・ベンガジの米領事館襲撃事件は過激派によるテロ攻撃だったが、当初、反イスラム動画への抗議デモに起因する「自然発生的」な事件だと誤った説明をしたのはライス氏(当時国連大使)だった。反米感情が事件を誘発したとの見解を示した人物が、反米感情を煽るLGBT外交を統括するのは実に奇妙である。

 アフリカ諸国では、海外援助を利用して世俗的価値観を強引に押し付けるオバマ政権に対し「文化帝国主義」との批判が出ていることはこれまで報じてきた通りだ。アフリカで存在感を拡大させる中国に対し、米国は影響力の低下が指摘される。植民地支配された過去を持つアフリカ諸国が嫌悪する帝国主義的なオバマ政権の振る舞いは、この傾向を助長する余地を生み出してしまっている。

 また、オバマ政権の政策は、そもそもアフリカの同性愛者の利益になっていないとの指摘もある。米紙ニューヨーク・タイムズは昨年12月、ナイジェリアではオバマ政権の圧力が逆に同性愛者への反感を煽り、嫌がらせや暴力の増加を招いていると報じた。

 多くのアフリカ諸国には植民地支配の名残で同性愛行為を禁ずる法律が存在するが、「西側が撤廃を要求するまでほとんど忘れられていた」(同紙)。だが、米国が問題を煽ることで、同性愛者の存在がクローズアップされ、彼らの静かな生活や安全が脅かされる状況が生まれているという。

 ナイジェリアの同性愛活動家は、同紙に「今まで同性愛者は静かに自分たちの生活を送っていた。多くの国民は同性愛者という存在すら知らなかった。だが、国民は今、その存在を知り、米国が外国のライフスタイルを持ち込んでいると聞かされている」と指摘。同性愛者の男子大学生も「米国の支援は状況を悪化させている」と不満を示した。

 ナイジェリアは「米国の圧力に対するリアクション」(同紙)として、14年に同性婚禁止法を制定し、同性愛絡みの罰則を強化している。

(ワシントン・早川俊行)