同性愛合法化を要求
堤防決壊のごとく権利拡大
オバマ米大統領は2011年に発表した「LGBT(性的少数者)人権促進国際イニシアチブ」で、同性愛行為を犯罪とする、いわゆるソドミー法撤廃に取り組む方針を強調した。オバマ政権は70カ国以上に存在するソドミー法を非人道的と見なすが、米国でもかつては全50州で存在した。連邦最高裁判断でソドミー法が完全に撤廃されたのは2003年、わずか13年前のことだ。
この時、ソドミー法撤廃で同性婚が合法化されるのは時間の問題と予言した人物がいる。今年2月に他界した最高裁の保守派判事アントニン・スカリア氏だ。同氏はソドミー法判決の反対意見で次のように警告していた。
「判決は異性と同性の結婚を区別する憲法の構造を破壊した。同性愛行為を道徳的に認めないことが正当な州の利益でないなら、どういう根拠で憲法で保障された自由を行使する同性愛カップルの結婚の利益を否定することができようか」
スカリア氏が恐れた通り、米国は一気に同性婚合法化の道をたどる。マサチューセッツ州が04年に全米で初めて同性婚を合法化すると、追随する州が拡大。世論も同性婚支持へと急速に傾いていき、昨年の最高裁判決で最終的に全50州で認められた。
米国の事例が明確に示すのは、ソドミー法を撤廃して同性愛行為を合法化すると、堤防が決壊したかのように、LGBTの権利拡大は猛烈な勢いで進む可能性があるということだ。
米保守派団体「ファミリー・ウオッチ・インターナショナル」のシャロン・スレーター会長によると、LGBTアジェンダは、①同性愛行為の合法化②住居・雇用でのLGBT差別の禁止③同性愛批判を禁ずる憎悪犯罪(ヘイトクライム)法の制定④同性カップルに結婚に準じる法的権利を与える「シビル・ユニオン」または「ドメスティック・パートナーシップ」の合法化⑤同性婚の合法化⑥同性カップルによる養子縁組の合法化⑦公教育で同性愛を健全で正常な行為と教えることを義務化――と連続的に進展していくという。
ただし、「同性愛行為が違法である限り、残りのLGBTアジェンダは実現しない」(スレーター氏)。オバマ政権はこの事実を知っているからこそ、他国にソドミー法撤廃を強く求めているのだ。
スレーター氏の団体は、途上国に同性愛の受け入れを迫る欧米諸国の「文化帝国主義」を非難するドキュメンタリー映像を制作。この中で、カリブ海の島国ジャマイカの女性弁護士シャーリー・リチャーズ氏は、次のように指摘している。
「ソドミー法の撤廃は始まりであって終わりではない。いったん撤廃されたら、人々に他の権利を要求する機会を与える。彼らは同性婚やシビル・ユニオンを求めるようになり、教会は彼らの結婚式を挙げることが要求され、教育制度にも組み込まれていく。そして、彼らのライフスタイルを批判すれば罰せられるところまで至るのだ」
アフリカやカリブ海の国々がオバマ政権の圧力に強く抵抗するのは、同性愛行為を合法化した場合、どのような未来が待ち受けているか、はっきり理解しているからだ。つまり、これらの国々は米国と同じ道をたどりたくないのである。
(ワシントン・早川俊行)