国務省・USAID 各国の活動家に資金提供
2011年12月6日、スイス・ジュネーブの国連欧州本部。「世界人権デー」に合わせて演説した当時の米国務長官ヒラリー・クリントン氏はこう強調した。
「オバマ政権はLGBT(性的少数者)の人権擁護を外交政策の優先課題として取り組む」
オバマ大統領が政府機関にLGBTの国際的な権利向上を指示した覚書の発表と同じ日に行われたクリントン氏の演説は、国務省と傘下の対外援助機関、国際開発局(USAID)がその“先兵”となることを、国際社会に宣言した瞬間だった。
国務省とUSAIDが特に力を入れているのが、世界各国のLGBT活動家組織への資金提供だ。オバマ政権は政府間の外交ルートでLGBTの権利向上を要求するだけでなく、活動家組織を支援して各国政府への圧力を強化する戦略を重要視している。
資金提供の枠組みとして、クリントン氏はジュネーブ演説で「グローバル平等基金」を創設し、米政府がまず300万㌦(約3億円)を拠出することを発表。基金は米政府以外にも13カ国の政府、民間の財団・企業が資金を拠出するなど規模を拡大させており、これまでに80カ国のLGBT活動家組織に計3000万㌦以上を提供した。
USAIDも「LGBTグローバル開発パートナシップ」を立ち上げ、100以上のLGBT組織に資金を提供したほか、各国の活動家を育成・訓練する事業を展開している。
国務省は昨年、「LGBT人権特使」のポストを新設し、初代特使に起用された同性愛者のキャリア外交官ランディ・ベリー氏は、40カ国以上を訪問するなど精力的に活動。USAIDも「上級LGBT調整官」のポストを設け、LGBT対策を指揮させている。
USAIDは14年に、ホワイトハウスが「画期的文書」と絶賛する行動指針「LGBT行動ビジョン」を策定。指針は「われわれが活動するあらゆる分野、あらゆる場所でLGBTを考慮する」と強調し、途上国への経済援助などUSAIDの事業をLGBTの権利向上とリンクさせる方針を明確にした。
USAIDがエイズウイルス(HIV)感染リスクの高い同性愛行為を助長する取り組みをしていることは、途上国支援の在り方を定めた海外援助法に違反しているとの指摘もある。同法は「エイズ予防、治療、制御を支援することが海外援助プログラムの主要目的」と明記。その上で「軽率な性交渉の削減を含め、HIV感染リスクのある行為を避けさせることを支援する」と規定している。
米チャプマン大学法科大学院のジョン・イーストマン教授は「USAIDは法律と正反対のことをしている。サハラ砂漠以南のアフリカ諸国にHIV拡大を阻止するのに役立つ法律を撤廃しろと要求するのは、とんでもないことだ」と批判する。
サマンサ・パワー米国連大使は、LGBT権利向上の取り組みが「米外交のDNAに編み込まれた」と自賛したが、国務省・USAIDがこれまでやってきたことを見れば、決して大げさな表現ではない。
(ワシントン・早川俊行)






