クリントン演説、「暴力阻止」を名分に圧力

オバマのLGBT外交 米国と途上国の「文化戦争」(12)

 「ゲイライツは人権だ。人権はゲイライツだ」――。2011年12月、当時の米国務長官ヒラリー・クリントン氏は、スイス・ジュネーブの国連欧州本部で行った演説でこう訴えた。

ヒラリー・クリントン

2011年12月、スイス・ジュネーブの国連欧州本部でLGBTの権利向上を訴える当時のヒラリー・クリントン米国務長官(米国務省提供)

 全米最大の性的少数者(LGBT)団体「人権キャンペーン」のチャド・グリフィン会長が「パワフルだがシンプルな言葉でLGBTの人権を国際舞台に押し上げた」と絶賛するように、クリントン演説はLGBTの国際的な権利向上を加速させた「画期的演説」(ホワイトハウス)と位置付けられている。

 これに対し、「演説はLGBTがまるで人権を享受していないかのようにミスリードするものだ」と批判するのは、米保守派団体「家庭調査協議会」宗教自由センターのトラビス・ウェーバー氏だ。

 クリントン氏は「性的指向を理由に殴打されたり、殺されたりするのは人権侵害だ」と指摘したが、ウェーバー氏は今年発表した論文で、「性的指向にかかわらず、国際法はすべての個人を国家による恣意(しい)的な拘束、拷問、法の手続きを踏まない殺害から保護している。クリントン氏は解決済みの問題を告発している。異性愛者に対する暴力も等しく不当だ」と主張した。

 米フロリダ州オーランドの同性愛者らが集まるナイトクラブで発生した銃乱射事件など、LGBTを標的とした暴力を阻止することに異論はない。オバマ政権の取り組みが激しい反発を招くのは、暴力阻止にとどまらず、同性愛を正常な行為として認知・促進させようとしているからだ。

 米保守派団体「ファミリー・ウオッチ・インターナショナル」のシャロン・スレーター会長は「暴力阻止のレトリックはトロイの木馬だ」と断じ、誰も反対できない暴力阻止を大義名分にして、各国に同性愛の受け入れを迫るのが、オバマ政権の「狡猾(こうかつ)」なやり方だと指摘する。

 クリントン氏の特別補佐官として、各国のLGBT活動家組織に資金提供する「グローバル平等基金」を立案するなど、オバマ政権のLGBT外交の「アーキテクト(設計者)」といわれるミラ・パテル氏は、本紙の取材に「(反発する国々の)文化は尊重するが、人が誰であるかを理由に殺す文化を尊重すべきだとは思わない」と語った。同性愛の是非を暴力の是非をめぐる議論にすり替える典型的な論法でオバマ政権の政策の正当性を強調した。

 暴力阻止を名分にLGBTアジェンダを推し進める動きは、国連でも見られる。国連人権高等弁務官は米主導で採択された国連人権理事会決議に基づき、LGBTに関する報告書を11年と15年の2度作成したが、報告書は暴力阻止という本来の主旨を超え、同性愛の受け入れを加盟国に求める内容になっている。

 報告書は、同性愛行為を犯罪とする法律の撤廃を要求しているほか、同性愛カップルを結婚に相当する関係と法的に認めることなどを求めている。

(ワシントン・早川俊行)