共に火種抱え終盤戦へ

トランプvsヒラリー 米大統領選まで1カ月(上)

 11月8日に行われる米大統領選の投票まであと1カ月。共和党候補ドナルド・トランプ氏(70)と民主党候補ヒラリー・クリントン前国務長官(68)の激戦は依然として続いている。予断を許さない最終盤の情勢を探った。
(ワシントン・岩城喜之)

800

9月26日、第1回テレビ討論会で握手を交わす共和党候補ドナルド・トランプ氏(左)と民主党候補ヒラリー・クリントン前国務長官(UPI)

 「討論会はいい出来だった。勝利したと考えている」

 先月26日に行われた大統領候補による第1回テレビ討論会を終えたトランプ氏は、記者団に囲まれてこのように自信を示した。

 その後もトランプ氏は「ネット調査では我々が勝利した」などと何度も主張。米主要メディアがクリントン氏が優勢だったと報じると、「信用できない」と切り捨てた。

 しかし、決定的な失言はなかったとはいえトランプ氏が討論会で勝ったとは言い難い状況なのは確かだ。「周到に準備されたクリントン氏の追及」(米メディア)に対し、我慢できず熱くなる場面も目立った。

 ウォール・ストリート・ジャーナル紙は「次の討論会でもトランプ氏が自制できないようなら、選挙戦は終わるだろう」と指摘する。

 一方、新たな火種となりつつあるのが、10月に入ってからトランプ氏の過去の事業などをめぐって次々と疑惑が噴出していることだ。

 1日には、事業の巨額損失により18年にわたり連邦所得税の支払いを免除されてきた可能性をニューヨーク・タイムズ紙が報道。また、慈善団体「トランプ財団」がニューヨーク州法に違反して無届けで寄付を募っていたことも明らかになった。

 このほかにキューバ禁輸違反の疑惑や、自身の事業に関する調査をしていた複数の州司法長官にたびたび寄付を行っていたことも発覚した。こうした疑惑によりクリントン氏と少しずつ支持率の差が開いていることに、陣営は気をもんでいる。

 ただ、リードするクリントン氏側もいくつかの懸念材料を抱えているという点では同じだ。特にクリントン陣営は、最終盤に選挙戦を左右する出来事が起こる「オクトーバー・サプライズ」を警戒しているという。

 中でも一番懸念を示すのが、ロシア政府の関連組織などがハッキングで盗み出したクリントン氏周辺の電子メールを暴露することだ。米メディアによると、メールの一部がクリントン氏に都合の悪いように書き換えられた状態で公開される可能性があり、陣営は警戒心を募らせている。

 内部告発サイト「ウィキリークス」の創設者ジュリアン・アサンジ容疑者が大統領選関連の文書を公開すると宣言していることも心配の種となっている。「ウィキリークス」は、民主党全国委員会の幹部がクリントン氏に肩入れしていた内容のメールを7月に公開し、党内に混乱を引き起こした「前科」があることから、どんな内容が飛び出すのか注目が集まっている。

 火種を抱える私用メール問題や慈善団体「クリントン財団」に絡む便宜供与疑惑などでも新たな事実が発覚する可能性がある。このため、陣営幹部は支持者に対して「(今後)何が起きても慌てないように」と呼び掛けている。

 ただ、クリントン氏はトランプ氏と並び歴代大統領候補の中でも著しく「信用度」が低いことから、大きなスキャンダルが噴出すれば、支持率が落ち込んでいく可能性も指摘されている。