【社説】バイデン氏演説 ウクライナに最大限の支援を


26日、ワルシャワで演説するバイデン米大統領(AFP時事)

 バイデン米大統領が訪問先のワルシャワで演説し、ウクライナを侵略したロシアのプーチン大統領について「権力の座にとどまるべきではない」と強く非難した。

 米政府当局者は演説後、この発言に関して「隣国やその地域でプーチンが権力を行使することは容認されるべきではないという意味だ」と述べ、政権交代や体制転換に言及したものではないと釈明した。米政府はこれまでロシアの体制転換は追求しない方針を示している。

国際社会の偽らざる本心

 しかし、プーチン氏が「権力の座にとどまるべきではない」というのは、国際社会の偽らざる本心だ。この発言に対し、ロシアのペスコフ大統領報道官は「バイデンが決めることではない。ロシアの大統領はロシア人によって選ばれる」と述べた。内政干渉ととらえて反発したのだろう。

 だがウクライナ侵略の目的の一つは、北大西洋条約機構(NATO)加盟を目指すゼレンスキー政権を排除して親露派政権を樹立することだ。軍事力を伴う内政干渉を行っているのはプーチン政権の方である。

 そもそも、プーチン氏に大統領としての資格があるのか。他国を侵略しただけでなく、多くの民間人を虐殺し、原発までも攻撃した。これらは全て国際法に違反するものだ。

 特に民間人への攻撃では、悪逆非道の限りを尽くしている。ブリンケン米国務長官はウクライナ侵略に関する声明で、アパートや学校、ショッピングセンター、救急車などがロシア軍の攻撃にさらされ、「罪のない数千の市民が殺され、負傷した」と説明。南東部マリウポリでは産科病院や劇場も攻撃されたと非難した。

 このような蛮行を平気で命じるプーチン政権が一刻も早く倒れ、ロシア軍が撤退してウクライナが平和を回復することを願わない人はいないはずだ。

 ロシア軍が民間人への攻撃を強めるのは、ウクライナ軍の抵抗で苦戦を強いられていることへの焦りもあろう。既に、かなりの数のロシア兵が戦死したとみられている。

 バイデン氏は演説でウクライナ侵略を「民主主義と専制主義の戦いだ」と位置付け、各国に対露共闘の継続を呼び掛けた。侵略を終わらせるには、自由や法の支配などの価値観を共有する西側諸国が結束し、ロシアに対する包囲網を構築して経済制裁などで圧力を強化することが欠かせない。

腰の引けた対応を懸念

 ただ、これまでバイデン氏が腰の引けた対応を見せてきたことは気掛かりだ。ロシア軍が対ウクライナ国境に最大19万人の部隊を展開した際、バイデン氏がウクライナへの米軍派遣を繰り返し否定したことが侵略を招いたとの見方が強い。

 11月に中間選挙を控える中、長年の海外での戦争に疲弊している米国民に向けたものとみていい。もちろん悪いのはプーチン氏だが、バイデン氏の言動にプーチン氏を増長させた面があったことは否定できない。懸命に戦っているウクライナに、最大限の支援を提供しなければならない。