【社説】電力需給逼迫 安定供給へ原発活用を進めよ
政府は東京電力管内で電力不足の恐れがあるとして「電力需給逼迫(ひっぱく)警報」を初めて出した。この警報は、需要に対する供給の余力(予備率)が、安定供給の目安となる3%を下回る可能性がある場合に発令される。
政府と東電は今朝からの節電を家庭や企業に要請。不要な照明を消し、暖房温度の設定を20度にするなどの協力を呼び掛けた。電力需給が逼迫すれば、大規模停電に陥る恐れがある。官民挙げて危機回避に努めたい。
地震で火力復旧に遅れ
対象は東京など1都8県。福島沖地震で停止した火力発電所の復旧が遅れている上、気温低下で電力需要が高まると予想されているためだ。
きょうは悪天候のため、太陽光発電の発電量低下も見込まれている。特に朝と夕方、需給が非常に厳しい状況となる見通しだ。大規模停電に陥れば、低温によって住民の健康が脅かされる。東電は他の電力大手から融通を受けるなど、安定供給に全力を挙げるべきだ。家庭や企業も節電に協力する必要がある。
電力需給の逼迫は今回だけではない。昨年1月には国内の液化天然ガス(LNG)在庫量が低下して火力発電所がフル稼働できず、需給が逼迫した。新型コロナウイルスの感染拡大で調達が難航したことに加え、日本と同様に寒波が襲来した中国や韓国が、LNGの確保に力を入れたことの影響も大きかった。
今年1月も、東京都内に大雪警報が出た6日から7日にかけ、太陽光発電の出力低下などで東電が大手電力4社から電力融通を受けた。11日には関西電力が火力発電所のトラブルがあった北陸電力に融通している。
相次ぐ電力逼迫の背景には、天候で出力が変動する太陽光など再生可能エネルギーの普及がある。一方、臨機応変な「たき増し」で出力を補う火力発電所は脱炭素化で廃止が進む。
こうした中、今年の夏も電力が不足するのではないかと懸念の声が上がっている。ウクライナを侵略したロシアへの経済制裁でエネルギー資源が高騰しているためだ。自民党の「電力安定供給推進議員連盟」(会長・細田博之衆院議長)は、停止している原発の速やかな再稼働を萩生田光一経済産業相に求めた。
東電福島第1原発の事故後、国内33基の原発の中で再稼働した原発は10基にとどまる。再稼働の前提として適合が必要な新規制基準については「世界で最も厳しい」と言われる。原子力規制委員会は円滑な審査に努めるべきだ。
欧州ではウクライナ危機などを背景に、安定電源としての原発活用の機運が広がっている。ベルギーは、2025年末を目指してきた全原発の稼働停止時期を10年間先送りすることを決定した。
次世代原子炉の開発を
一方、ロシアがウクライナの原発を攻撃したことで安全性への懸念も高まっている。岸田文雄首相は国内の原発に警察の専従警備部隊を設置する議論を政府内で始める考えを示した。外部電源や注水に頼らずに原子炉を自然冷却できるなど、安全性の高い次世代原子炉「小型モジュール炉(SMR)」の開発も進める必要がある。