不動産デフォルトなど中国が抱える3大危機を特集するエコノミスト
世界経済にも悪影響
今や米国と並ぶ覇権国家を狙う中国だが、ここにきて外国からの厳しい攻勢を受けている。香港での露骨な民主派抑圧から始まり、新疆ウイグル自治区におけるウイグル族への人権抑圧などで西側諸国からの糾弾にさらされている。一方、中国政府が主導し国際的な経済ネットワークを構築しようと始まった「一帯一路」も順風満帆で進んでいるふうでもなく、北欧、東欧諸国からも不満の声が上がっている。
こうした中で週刊エコノミスト(11月16日号)が中国の国内経済に焦点を当て、現在抱えている危機的状況について特集を組んだ。「世界を襲う中国3大危機」と題されたこの特集では「不動産デフォルト」「IT企業規制」「電力不足」の三つの危機を挙げた。
とりわけ、「不動産デフォルト」に関して言えば、過重債務問題に苦しむ中国恒大集団を引き合いに出し、「(今後、当局が)恒大に事業を継承させるか、経営破綻しても他者が同事業を引き継ぐことが想定されよう」(斎藤尚登・大和総研主席研究員)とした上で、「その過程で、貸出の貸し倒れや社債のデフォルト(債務不履行)の発生は避けられない可能性が高い」(同)と指摘し、中国の不動産バブルの崩壊が徐々に高まりつつあることを示す。
事実、これまで中国では今年に入って不動産企業のデフォルトが相次いでいるのだ。こうした不動産業の不振が長期化すれば中国経済の成長は明らかに鈍化するばかりか、それが世界経済にも影響を与えていくのである。
新興IT企業が標的
また、「新興IT企業規制」について言えば、民営企業が相次いで中国政府の標的になっている。中国を代表するEC(電子商取引)大手のアリババ・グループやデリバリー大手の美団グループが、独禁法違反を理由に膨大な制裁金や行政指導が科せられている。
こうした度重なるIT企業への仕打ちに対してエコノミストは、「投資マネーはIT企業から離れた。政治的に先行きが不透明だからだ」という中国投資家の言葉を引用し、中国政府の露骨なやり口が投資家を離反させていると説く。
さらに「アリババの動きは、中国共産党のメディア支配を揺るがしかねないものにすると認識されたのだ」(ジャーナリストの高口康太氏)との分析を載せ、「世界的なIT大国となった中国だが、今後もその輝きを維持できるか。『狂騒』の影に不安が残る」(同)と中国政府の異様さと異常性を訴える。
もっとも、共産主義による一党独裁体制を取る中国であれば、独禁法の恣意(しい)的運用も可能になるのであろう。まさしくそれは、香港の民主化勢力を力ずくで解散させた手法と同じものである。
ところで今回の3大危機の中には含まれていないが、特集の中に「一帯一路」についての指摘があった。エコノミストは「米国との対立の長期化を覚悟し、中国は『一帯一路』構想などにより独自の広域経済圏の形成を急ぐ。しかし経済力にものを言わせた強硬な『仲間づくり』には反発も強まる」と分析する。
中国のやり口は同構想を盾に相手国を借金漬けにして、債務免除と引き換えにインフラの権益などを得るというものだが、それに嫌気が差して中国離れが進んでいるというのだ。そこで中国が孤立回避のために取った行動が環太平洋パートナーシップ(TPP)加盟を求めるという外交攻勢である。
TPP加盟は不可能
これに対してエコノミストは、「アリババ集団など優れた民営企業には厳しく独禁法を振りかざす一方、国有企業同士を合併させ、独占の度合いを強めている。偏った産業政策を改めない限り、自由な競争を妨げる国有企業の優遇を禁じたTPPへの加盟は不可能だ」(湯浅健司・日本経済研究センター首席研究員)と綴(つづ)る。まさに至言である。共産中国の動向をよくよく注視していかなければならない。
(湯朝 肇)