中東で低下した米国のプレゼンス復活の必要性を訴える米紙WSJ


バイデン大統領(UPI)

拒否された電話会談
 バイデン米大統領がサウジアラビア、アラブ首長国連邦(UAE)両国の首脳に電話会談を拒否されていたことが明らかになり、アジアへのシフトを進める米国と中東との関係悪化に懸念の声が上がっている。高騰する原油価格をめぐって会談を求めたものだが、サウジ、UAE両国は近年、ロシアとの関係を深めており、米国との関係悪化は、ウクライナ侵攻への対応にも影を落としている。

 米ワシントン大学のフィラス・マクサド非常勤教授は米紙ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)に掲載されたコラム「米・中東関係の危機」で、米国の中東への関与を再度、強化する必要性を訴えている。

 サウジ、UAEは共に、米国からの原油増産の要請に消極的、さらに、ロシアによるウクライナ侵攻への非難を手控えるなど、米国との間に距離を置き始めている。またUAEは18日、米国が制裁を科しているシリアのアサド大統領の訪問を受け入れた。アサド氏のアラブ諸国訪問は、2011年のシリア内戦勃発後初めて。米政府は直接的な批判は控えているものの、歓迎していないことは明らかだ。両国の仇敵(きゅうてき)であるイランとの核合意再建が間近とされていることも、関係悪化に無関係ではない。

 マクサド氏は、「米政府がこの苦境にどう対処するかで、今後数十年間の中東の未来、米国の中東での位置が決まる」と指摘、米国の中東でのプレゼンスの回復を求めている。

 両国は近年、ロシア、中国との関係を強化してきた。さらに、「米国の中東の親米国、イスラエル、ヨルダン、トルコ、エジプトも中露との関係」を深めているという。

 これについて、マクサド氏は、中東の親米国家は「米国が、同盟国を守るという約束を守らないのを見て、外交の多角化が必要という合理的結論を下した」と指摘する。そのきっかけとなったのが、アフガニスタンからの撤収で見せた米軍の醜態だ。シリア、リビアでも米国のプレゼンスは低下、その一方でロシアが中東、アフリカでの存在感を増している。

影響力強化する中露

 さらに、イエメン情勢がそれに拍車を掛ける。サウジ、UAEは、イランが支援する武装組織フーシ派への攻撃を続けてきた。トランプ前政権は積極的にサウジ、UAEに兵器を売却したものの、直接的に関与することはなく、バイデン政権になってからは、兵器の売却すら渋るようになった。「19年と22年の空港、石油施設へのイランによるドローン攻撃に対し米国が真剣な対応を取らなかったことが、決定打となった」とマクサド氏は分析している。

 その上で「サウジとUAEは、好んで中露と関係を深めたわけではない。必要に迫られたからだ」と、米国の中東での失策が、中露の影響力の強化の一因と主張する。

 ウクライナ侵攻をめぐっては、ロシアの新興財閥オリガルヒも欧米の制裁の対象となり、UAEに資産を移転したり、UAEの不動産を購入したりする事例が急増しているという。

 UAEは、富裕層の保養地しても近年、注目されている。それとともに、マネーロンダリングなど「汚いカネ」の流入も指摘されてきた。

UAE、資金逃避地に

 英ニュースサイト、ニュー・アラブは、「UAEの(企業などが拠点を移しやすい)オフショアリング制度、規制当局の緩い監督、透明性の欠如が、汚いカネを引き付けてきた」と指摘、オリガルヒなどの「資産を隠すための逃避地」となっていると報じている。今月に入ってUAEは、国際機関「金融活動作業部会(FATF)」によって、マネーロンダリングの監視強化対象国となる「グレーリスト」に加えられた。

 ウクライナ侵攻を受けて、これまで富裕層の資金が集まっていたスイスやモナコも、制裁対象のオリガルヒを締め出し始めており、「(UAEの)ドバイとイスラエルにいつもより多くのオリガルヒのヨットが訪れ、UAEの不動産を購入したり、ドバイで起業したりすることに関心を示すロシア人とベラルーシ人が急増している」という。「資産が目減りしたり、凍結、没収されたりしないため」であることは明らかだ。

 中東の安定には依然、米国の積極関与が必要だ。米国の影響力の低下が、中露という全体主義国家の台頭を招いている。

(本田隆文)