香港立法会選挙を「茶番」と厳しく糾弾するも本気度が欠落した朝毎

中国の人権侵害を訴えるデモ行進=東京新宿(2020年3月) 

「一国二制度」が終焉
 香港の議会に当たる立法会の選挙が19日、投開票された。民主派を締め出した上での選挙の結果は、親中派一色に染まった議席独占だった。

 香港立法会はこれから、中国共産党のスタンプ機関でしかない全国人民代表大会(全人代)と化す。香港における高度な自治を機能させてきた議会制民主主義の命脈は、ここに断たれた。

 各紙もこれを厳しく糾弾した。

 毎日の21日付社説は「力によって異論を排除した選挙は、茶番劇と言わざるを得ない」とした。

 日経も22日付社説で「選挙と議会の形骸化は中国が約束した『一国二制度』の死を意味する」と述べた。「香港の『高度の自治』を支える根幹は公正な選挙と、議会の政府に対するチェック機能にある」として、そのデッドラインを踏み越えたとの認識だ。

 朝日も21日付社説で「これが中国共産党政権が強調する『民主』の姿なのか。民意の審判とは到底言えない茶番というほかない」と毎日と同様に茶番劇と断じた。

 ただ、朝毎の批判には一抹の不安が残る。人権や民主主義擁護のポーズは取るが、その本気度が疑われるからだ。

平和だけつまみ食い

 例えば北京冬季オリンピックへの「外交ボイコット」に関しての論説だ。朝日は8日付社説「五輪と政治 大国の争いと決別を」で「文化や国籍など違いを超え、友情、連帯、フェアプレーの精神をもって平和な世界の実現に貢献する――近代五輪を提唱したクーベルタンの言葉を思い起こしたい」「五輪本来の精神に立ち返るときだ」とし、米国の外交ボイコットへの同調をいさめた。

 毎日も8日付社説「米国の北京五輪対応 亀裂深めない知恵が必要」で、「五輪は本来、平和の祭典である。にもかかわらず、政治が持ち込まれ、意義が損なわれた苦い経験がある」と指摘し、「平和と協調という五輪精神を追求しなければならない」として、米国などの外交ボイコットに追随するなと論陣を張った。

 だが、朝毎が筆を同じくする五輪精神には、平和だけでなく人権も入っている。スポーツすることが人権の一つというだけでなく、オリンピア精神は人間の尊厳が保障された基本的人権への配慮を問うている。

 朝毎は平和だけをつまみ食いして、中国が内政問題だと言い張る新疆ウイグル自治区やチベット自治区での人権侵害問題に目をつむった格好だ。

 中国は外交ボイコットに強く反発するが、ウイグルでの強制収容所がないというなら、国際監視団やジャーナリストにウイグルの門戸を開き自由に見てもらうだけで済む話だ。

 中国が強制収容所など、欧米諸国がつくり上げた「でっち上げ」で「世紀の嘘(うそ)」と言い張るだけでは、公正な選挙も言論の自由もない政治を「中国式民主主義」と言い募るのと同様、目くらましを狙ったプロパガンダとしか見られない。

 なお人権の中でも、魂の尊厳に関わる核心が精神的自由だ。つまり「思想および良心の自由」「言論および表現の自由」や「信教の自由」といった内的世界の自由だ。

 ウイグルのイスラム教やチベットの仏教など信仰や言論を理由に当局に捕えられたり弾圧を加えられたりする状況は、どこの国であろうと見過ごすことがあってはならない。人権は人類の普遍的価値だからだ。

独裁政権を自ら証明

 また、香港の自由を求め戦い続けた多くの自由戦士らは当局に逮捕拘束され、その象徴的指導者だった香港紙リンゴ日報の創業者・黎智英(ジミー・ライ)氏は現在、獄中だ。

 こうした人々の犠牲の上に成り立つ社会を「中国式民主主義」と強弁すること自体、「中国式独裁政権」を自ら証明したようなものだ。

(池永達夫)