銃で2万人死ぬ米国より人権でも中国が「優勢」と強弁した凌星光氏

中国共産党によるチベット人への弾圧は、今もなお行われていると言われている。写真は中国共産党創立100周年に抗議するチベット人男性の写真=7月1日、インド(UPI)

過激な発言で“炎上”
 日中関係を専門とする福井県立大学名誉教授の凌星光氏といえば、これまで何度か、テレビで過激な発言を行い“炎上”している学者だ。

 例えば今年4月、BSフジの時事討論番組「プライムニュース」で、次のような、とんでも発言を行っている。中国政府が少数民族ウイグル族を強制収容所送りにし、それを「再教育」だと強弁していることについて、中谷元・元防衛大臣が「洗脳でしょう」と批判すると、凌氏は「洗脳って必要でしょう」と、堂々と言ってのけた。

 また、他局の番組でも「ウイグルで行われているのは職業訓練」と正当化し、他の出演者を呆れさせた。これらの“暴言”は、すぐさまネットにアップされ、今でも見ることができる。

 その凌氏がまた「プライムニュース」(12月1日)に登場した。討論のテーマは人権侵害が深刻な中国に北京冬季五輪を開催する資格はあるのか。また、欧米諸国で検討されている「外交ボイコット」に、日本も加わるべきか。出演者は、凌氏のほかに、元駐中国大使・宮本雄二氏、自民党外交部会長・佐藤正久氏、そしてスポーツジャーナリスト・二宮清純氏。

 番組は、凌氏が時に耳を疑うような発言を行うことを百も承知で招いている。日本で反中感情が高まる今、差し障りのない発言を行う識者を出演させるより、その過激発言は話題となっているので、視聴率が稼げる、また、「中国の代弁者」がいた方が、日中の価値観の違いが浮き彫りとなり、討論が盛り上がるからだ。

 まず、外交ボイコットの是非についてのそれぞれの立場を説明すると、凌氏は世界の平和のためにあるのが五輪だから、「各国の首脳、政治家も積極的に対応してほしい」と、当然の反対派。

二宮、佐藤両氏が反論

 一方、チベット、香港、ウイグルにおける人権弾圧を理由に賛成したのは佐藤氏と二宮氏。特に二宮氏はスポーツと政治との分離の観点から「この際、政治家が行くのをやめる先例をつくるのがいい」として「外交ボイコットは有力な選択肢」と訴えた。

 宮本氏は外務省のチャイナ・スクール出身者らしく「五輪は中国の人の誇り。その人たちの感情を傷つけたくない。(政治家は)無理して行く必要ないが」と中間派という構図だ。

 中国は平和と人権の祭典にふさわしい国ではないという外交ボイコット賛成派の主張に対して、凌氏は次のように反論した。

 人権とは生命権、自由権、財産権だ。西側諸国の主張する人権には疑問符を付けて考えてほしい。今や、国連の人権委員会でも、中国の価値観が優勢だ。中国の人権は、北京五輪が開催された2008年から格段に改善されている。そして「米国では毎年、銃で2万人死んでいる。コロナでも数十万人が死んだ。中国では最初、武漢で死者が出たが、それから増えていない」と、胸を張った。そして、社会全体の秩序を離れた自由は、持続性のある自由ではないというのだ。

 これには外交ボイコット派の二人は黙ってはいない。二宮氏は「人はパンのみに生きるにあらず」という聖書の言葉を持ち出し、「凌先生は生存のことを言ったが、自由があって初めて生活できる。(中国の人権が)改善されたというのは言い過ぎ」と反論。

 佐藤氏も「中国の方がよく『米国や日本にも人権問題があるだろう』と反論する。確かに問題はある。しかし、中国がウイグルや香港でやったような自由民主主義に対する挑戦は、われわれ自由民主主義の価値観と相容れないし、全然レベルが違う。特に平和と人権を謳い文句にしている五輪憲章を考えると、今の中国に開催国としての資格はあるのか」と言葉に力を込めた。

独善性は相変わらず

 今回、凌氏から「暴言」というほどの過激発言はなかったが、民主主義国家より中国式の人権感覚の方が正しいと堂々と述べる独善性だけは相変わらず健在だった。

(森田清策)