【社説】ICPO 恣意的な制度運用を許すな


ICPO本部(リヨン)Wikipediaより

 国際刑事警察機構(ICPO)が、13人で構成する執行委員会のメンバーに中国の胡彬郴・公安省副局長を選出した。

 ICPOは逃亡犯罪人の国際手配書を発行している。中国代表の執行部入りで海外亡命中の反体制派らの摘発が強化されることが憂慮される。

 中国代表が執行部入り

 執行委員は加盟国による選挙で選ばれ、任期は3年(総裁は4年)だ。執行委のメンバーに中国の代表が選ばれるのは、2016~18年に総裁を務めた孟宏偉氏以来となる。孟氏は18年に中国に帰国した際に拘束された後、収賄の罪で起訴され、任期途中で辞任した。

 孟氏が総裁のポストについたのは、海外逃亡した元腐敗高官の摘発を強化する習近平指導部が、元高官の引き渡しなど国際的捜査を有利に進める思惑を持っていたからとされる。しかし孟氏は、こうした「期待」に十分に応えることができず、それが拘束につながったとの見方も出ている。

 胡氏の執行部入りも、海外で活動する人権活動家らの追跡を強化する狙いがあろう。人権団体などは胡氏の当選阻止を訴えてきたが、その声は届かなかった。日本や欧米の議員による「対中政策に関する列国議会連盟」(IPAC)は、中国政府が亡命中のウイグル人らを迫害するため、ICPOの国際手配制度を乱用してきたと批判。胡氏選出に「深い懸念」を表明した。

 かつて中国は、在外ウイグル族組織「世界ウイグル会議」のドルクン・エイサ事務局長(現総裁)の身柄拘束を求め、ICPOが国際逮捕状を発行した。だが国際人権団体などの抗議で無効とした経緯がある。中国が国際的な影響力を背景に、制度を恣意(しい)的に運用することは許されない。

 ICPOの総会に台湾が招待されなかったことも大きな問題だ。日米やカナダなど30カ国の国会議員らが台湾参加への支持を表明していたが、反対する中国を支持する国の方が多く、台湾招待を実現できなかった。

 ICPOは国際犯罪の情報収集や分析、国際手配などを通じて、各国の捜査協力を支援するほか、犯罪防止に向けた各国の連携を進める役割を担う。台湾を排除すれば、国際犯罪への対応にも支障が生じかねない。

 同じような構図は世界保健機関(WHO)でも見られる。台湾はWHO総会へのオブザーバー参加を求め、先進7カ国(G7)も支持しているが、やはり中国の反対で実現できていない。自国の利益のため、国際機関の中立性を損なうことがあってはなるまい。

 中国は国際機関における影響力を拡大している。国連に15ある専門機関のうち、現在は三つの機関のトップを中国人が務めているほか、重要ポストにも人材を送り込んでいる。

 影響力の拡大阻止を

 しかし中国は、国内で少数民族や香港市民の人権を弾圧し、対外的には覇権主義的な動きを強めている。こうした国の代表に、国際機関のトップを務める資格があるとは思えない。

 日米をはじめとする民主主義陣営は、中国の影響力拡大阻止に動かなければならない。

 (サムネイル画像:Wikipediaより)