数カ月にわたる長期戦もー米戦略予算評価センター上級研究員 トシ・ヨシハラ氏
米戦略予算評価センター トシ・ヨシハラ上級研究員(上)
ウクライナ危機へのバイデン米政権の対応をどう評価するか。
バイデン政権は、インテリジェンス情報を開示し、ロシアのウクライナ侵攻が差し迫っていることを世界に伝えた点で良い仕事をした。また同盟・友好国とよく調整することで、近年で最も厳しい制裁体制を築くことができた。
しかし、バイデン氏が投稿した「北大西洋条約機構(NATO)とロシアが直接対決すれば第3次世界大戦になる」というツイートは、不要だった。抑止の観点から最も避けるべきことは、こちらが準備できていないことを敵に伝えることだ。
効果的な抑止のためには、悪い事態が起きるリスクも選択肢として残しておく必要がある。このツイートは、米国の覚悟を示すものではなく、その抑止力を損なうものだった。
ウクライナ侵攻は、未然に防ぐことができたのか。
これはプーチン大統領の頭の中で起きることであり、判断することは難しいが、抑止することはできなかったように思える。
プーチン氏は恐らく、ロシア帝国を再建して、ウクライナをロシアの一部に組み込むという自らの主張を心から信じている。だとすれば、こうした目的や信念を持つ人物を思いとどまらせることは非常に困難だ。
ロシア軍が想定されていた以上に苦戦している理由は。
ロシア軍が多くの人が想定していたより能力が低かった理由はさまざまだ。
まずロシア軍は、NATOとの戦いに備えるため相当な軍事力を温存する必要があるということだ。それが恐らくロシア軍がこの紛争で価値の高い軍事資産を危険にさらすことを望まない理由だ。
もう一つは、腐敗が蔓延(まんえん)していることだ。これが兵器のメンテナンスや訓練の欠如につながっている。また、ロシア軍の能力の低さだけでなく、ウクライナの優れた訓練や装備、軍事ドクトリン、祖国を守っていることからくる高い士気があることも忘れてはならない。
ウクライナにおけるプーチン氏の出口戦略は何か。
それはプーチン氏が何を望んでいるかによる。プーチン氏による侵攻作戦は、既存の政権を覆して傀儡(かいらい)政権を据え、事実上の無条件降伏を提示するという非常に野心的な目標だった。
問題は、プーチン氏がまだそれを達成できると信じているのか、もしくはそれが不可能だと結論を下した場合、代わりに何を求めるかだ。それは占領した土地の一部を支配し続けることなのか。もしくは、ある種の報復として、現在行われているウクライナの都市や産業基盤、市民への攻撃それ自体が目的となるのか。
プーチン氏が「もうやめにしよう」と言うのかどうか、またそれがいつなのかは、自身の目標をどう捉えるかによるだろう。
この戦争は、どのような結末となることが考えられるか。
ロシア軍は兵站(へいたん)上の課題や予想以上の死傷者など多くの問題に見舞われているが、それでもまだ相当な軍事プレゼンスを維持している。一部の地点ではロシア軍は塹壕(ざんごう)を掘って防御体制に移行し、幾つかのウクライナの都市への包囲攻撃を実施しており、長期戦となる可能性を示している。
結末を予測するのは非常に難しい。なぜなら、戦争が始まって約1カ月になるが、これが何カ月にもわたる戦闘の始まりにすぎない可能性があるからだ。
(聞き手=ワシントン・山崎洋介)