今後の原発・エネルギー政策 諸葛宗男さん
前東京大学公共政策大学院特任教授 諸葛宗男さん
原子力技術者の育成急げ
自給率向上へ新増設を
東京電力福島第1原発事故から11年になる。この間、再稼働した原子力発電はわずか10基。脱炭素化の動きが活発化する中、今後の原発政策について、諸葛宗男・前東京大学公共政策大学院特任教授に聞いた。(聞き手=編集委員・片上晴彦)
再稼働が思うように進まない。原子力規制委員会の行政機関としての実力はどうか。
当初、設置変更許可、設工認(工事の方法)、保安規定の3手続きを並行してやり、半年で許可を出すと言っていたが、実際には数年かかった。現場を知らない初代委員長の田中俊一氏の能力不足が原因だ。また今の規制委員会でも原子炉のことを知っているのは数人しかいない。さらに時の政権が「(原発を)限りなく減らす」との意向で、審査を急がせる空気もなかったのも問題だ。
原発の安全対策は。
福島第1原発の事故で必要だったのは大型冷却装置ではなかった。普通のビルの屋上にあるごく一般的な冷却装置がありさえすれば事故は防げた。なぜかというと炉心の停止動作は正常に行われていて、核燃料の自然崩壊で放出される熱だけを除去すればよかった。当初、安全神話のことだけが話題になり、このことはあまり知られていない。
あらかじめその設備を準備していれば事故にはならなかったわけで、そのための費用は数百万円だ。設計上の想定外事故だった。
今の新規制基準のほとんどは世論対策であり、原発再稼働に向けた電力11社の安全対策費の総額は1月時点で5兆7000億円以上に上っている。何兆円もの安全対策費は異常だ。
原発が運行しない期間、わが国の原子力技術の継承はどうなっていたか。
この間、東京電力はじめ優秀な人材は「こんな所にいたら浮かばれない」と既に脱出してしまっている。本当に人がいない。原発建設には普通約30年かかるから、今からでも人集めし育てなければいけない。
エネルギーのベストミックスは。
政府は2050年までに脱炭素化を掲げている。二酸化炭素が出ない原発と再エネだけにしないと不可能だ。それまでは石油、石炭、天然ガスも使うが、50年段階では石油エネルギーはやめざるを得ない。最終的に原発を50~60%、残り40%を再エネにする。
残っている原発は約35基あり、これを全部動かせば達成できるが、もうすぐ先に(耐用年数)40年運転の崖っぷちがある。日本は1回延長しても60年。アメリカのように80年運転にするか、新増設を許すか…。
経産省は今、「事故の経験を生かした新しいプラントを作りましょう」と言っている。それが実現すれば、30年後には新設できる。政府はエネルギー基本計画に新増設を加えるべきだ。
エネルギー自給率も低過ぎるのでは。
20%以下は危険だと言われるが、今、約12%しかない。30年の目標は25%だが、せめて食料自給率目標と同じ45%にしないといけない。
欧米で人気の小型炉
国民の原発に対する認識は依然厳しいが。
欧州委が、持続可能な経済活動を分類する制度の「EUタクソノミー」に合致する企業活動を示す委任規則に、原子力や天然ガスを含める案を発表した。日本への影響はすぐには出ないかもしれないが、一般国民の認識も徐々に改善されるのではないか。
設計上、何が必要か。
私自身、東芝時代に開発していたのは小型炉。安全、簡素、文字通り小型。空冷がよく、電力がなくなっても、放っておけば自然循環で空気が回って冷える。要するにそれぐらいの熱しかでない。今、アメリカ、ヨーロッパでも小型炉の人気が高い。
ロシアのウクライナ侵攻でまずチェルノブイリ原発を占領したのはなぜか。
チェルノブイリには原発事故処理のノウハウがある。(プーチン大統領は)廃炉や事故処理の技術を押さえないと、今後ロシアでは原子力を続けていくことができないと確信しているのではないか。アメリカはスリーマイル島の事故を国内でちゃんと始末している。日本には福島の事故があった。(事故処理の手順記録などは)貴重な財産だ。






