【社説】中国全人代 共産党の「赤い野心」に警戒を


全国人民代表大会

 中国の全国人民代表大会(全人代)が北京で開幕した。今秋予定される5年に1度の共産党大会で、異例の党総書記3期目を目指す習近平国家主席にとって重要な節目となる大会だ。

 軍事予算が26・3兆円

 李克強首相は政府活動報告で、国内総生産(GDP)の成長率目標を昨年より低い「5・5%前後」とする方針を示した。李氏は中国経済が国内需要の縮小やサプライチェーン(供給網)の混乱、市場の不安定化といった「三重苦」の中にあることを強調した。右肩上がりの高度成長期は既に過去のものとなった中国経済は、中国不動産開発大手の中国恒大集団の債務不履行(デフォルト)に見られるような不動産不況を典型とする曲がり角に差し掛かっている。

 だが、こうした中でも、軍事予算は前年比7・1%増の約26兆3000億円を計上し、伸びは2年連続で前年を上回った。これは日本の防衛予算の約5倍。約88兆円の米国国防費とは表向きの大きな差があるものの、中国特有の隠された軍事予算(外国製兵器装備の調達費や武装警察の経費、国防工業助成金、軍事関連の科学研究経費など)を加えれば、公表された予算の2倍から3倍になる。

 習政権は建国100年を迎える今世紀半ばまでに、米軍に比肩する「世界一流の軍隊建設」を国家目標に掲げている。経済成長が抑え込まれている中、軍事費に大枚をはたく背景には、こうした共産党政権の「赤い野心」が潜んでいることを忘れてはならない。中国の最終目標は米国を追い落とし、世界の覇権掌握にあるとみていいだろう。

 習政権が2013年に掲げた巨大経済圏構想「一帯一路」も、ユーラシア大陸の東西を陸路と海路で結ぶことで欧米に匹敵するユーラシア経済圏を構築し、かつインド洋を介し地中海と南シナ海を結ぶ港湾を押さえることで米国の海軍戦略家マハンの地政学理論を踏襲した格好だ。

 なお中国人民解放軍は4日から15日まで、南シナ海での軍事演習に入った。ボルネオ島沖まで伸びた独自の境界線「九段線」を設定して南シナ海の領有権を主張する中国が、5日から1週間の日程で開かれる全人代と同時期にこの地域で軍事演習を行うのは、国内の引き締めを図るとともに対外的メッセージを含んでいるとみられる。

 李氏は政府活動報告で「堅実かつ柔軟な軍事闘争」によって「国家の主権・安全・発展の利益を守り抜く」と強調。南シナ海などの「核心的利益」に関し、威嚇や軍事力行使を厭(いと)わず後ろに引かない姿勢を示唆した。

 台湾については「『台湾独立』分裂活動と外部勢力の干渉に断固反対する」と主張。昨年は「外部勢力の干渉」の文言はなく、台湾への関与を強める米国を牽制(けんせい)した格好で、改めて統一への意思を強調した。台湾周辺では、米中双方が軍事演習を繰り返し、台湾防空識別圏への中国軍機侵入も日常茶飯事となるなどきな臭さがただよう。

 東アの安保体制構築急げ

 中国の平和的台頭がフィクションでしかなかったことが鮮明になった今、実効性のある東アジアの安全保障体制構築が急務となっている。