【社説】北のミサイル 身勝手な振る舞いを許すな


取材に応じる岸信夫防衛相(中央)=5日午前、防衛省

 北朝鮮が弾道ミサイルを発射した。ロシアによるウクライナ侵略に乗じ、こうした挑発を行うことは断じて容認できない。

 ロシアによる侵略を擁護

 5日に発射された弾道ミサイルについて、岸信夫防衛相は最高高度550㌔で約300㌔を飛び、日本の排他的経済水域(EEZ)外に落下したとの分析を明らかにした。通常より高い高度で打ち上げ、迎撃を難しくする「ロフテッド軌道」とみられている。

 北朝鮮がミサイルを発射したのは今年9回目となる。北朝鮮の弾道ミサイル発射は国連安全保障理事会決議に違反し、地域の平和と安定を脅かすものだ。ましてや、国際社会がロシアのウクライナ侵略への対応に追われる中、その隙を狙ったのであれば許し難い。米国をはじめとする国際社会は北朝鮮非核化への取り組みを強めるべきだ。

 ウクライナ侵略について、北朝鮮は自国の「後ろ盾」であるロシアを擁護する姿勢を示している。国連総会(193カ国)は緊急特別会合で、領土保全や武力行使禁止を定めた国連憲章違反だとウクライナ侵略を批判し、軍部隊の即時撤退を求める対ロシア非難決議案を141カ国の賛成多数で採択した。

 しかし北朝鮮は、ロシアやベラルーシなどと共に反対に回った。無辜(むこ)のウクライナ国民を虐殺するロシアを擁護することは、国際平和への重大な挑戦だと言わざるを得ない。

 北朝鮮がミサイル発射を繰り返すのは、ロシアや中国が安保理による追加制裁に反対していることも背景にある。中露両国によって北朝鮮に対する非難声明も出せない安保理の機能不全は目を覆うばかりである。

 北朝鮮の相次ぐ弾道ミサイル発射を受け、米国は1月、ミサイル開発や大量破壊兵器の拡散に関わったとして北朝鮮国籍の個人6人とロシア国籍の個人1人に米国内資産凍結などの制裁を科した。一方、北朝鮮は米国との「信頼醸成措置」を全面的に見直し、2018年4月から凍結していた核実験と大陸間弾道ミサイル(ICBM)試射の再開を示唆した。

 バイデン米政権は北朝鮮に対して「前提条件なしで会う用意はできている」と対話を呼び掛けている。だが北朝鮮には、ミサイル開発を進め、より有利な立場に立ってから米国との交渉に臨んで主導権を握る狙いがあろう。

 ロシアのウクライナ侵略や中国による台湾への圧力強化、そして北朝鮮の相次ぐミサイル発射などは、バイデン政権の「弱腰」が招いている面もある。特に昨年8月のアフガニスタンからの米軍撤退に伴う混乱を目の当たりにし、専制主義国家が攻勢に出ているとみていい。こうした国々の身勝手な振る舞いを許してはならない。

 韓国は対日関係改善を

 北朝鮮に対しては制裁強化と共に日米韓の連携が重要だ。しかし現在、日韓関係は元徴用工問題や慰安婦問題などで冷え込んでいる。今月9日の選挙で選ばれる新たな韓国大統領には、日本との関係改善を急ぐよう求めたい。それが日韓両国だけでなく、地域の平和と安定につながるはずだ。