【上昇気流】俳人の稲畑汀子さんが亡くなった


俳句

 俳人の稲畑汀子さんが亡くなった。俳句雑誌「ホトトギス」の主宰を長く務めていたことで知られている。祖父は高浜虚子、父が高浜年尾という俳句の名門一家の出。

 気流子は小欄の原稿を書く際に、よく稲畑さんの編著『改訂版 ホトトギス新歳時記』をひもといた。引用されている俳句を読むと、不思議なほど心が落ち着いた。「序」によれば、虚子の新歳時記の改訂版を出したのは、その精神を継承しつつ、近年新しい季語が定着したのを採用するため。

 「水の過去水の未来に温みそむ」(稲畑汀子)。春になると思い出すのがこの句。水が暖かくなる感覚について過去と未来という時間軸で斬新な表現を生み出している。

 短歌を長編小説とすれば、俳句は短編小説に例えることもできよう。小説では短編よりも長編が重んじられる傾向があるが、短歌と俳句にはこうした違いはない。両者とも独自な韻文であり、詩である。

 文学界を代表する文学賞の芥川賞・直木賞は、どちらかといえば芥川賞が中・短編が対象で、直木賞は長編が候補になる。創設したのは作家の菊池寛である。芥川賞が、菊池の親友だった芥川龍之介にちなんで名付けられたことは有名である。

 久米正雄や芥川と一緒に第3次「新思潮」を創刊したが、文壇デビューは芥川の方が早かった。自ら作品を発表したほか、若い作家のために月刊誌「文芸春秋」を創刊した。1948(昭和23)年のきょうは、菊池の亡くなった日である。