【上昇気流】87歳で亡くなった俳優の宝田明さん
87歳で亡くなった俳優の宝田明さんの若い頃の代表作といえば、東宝映画のゴジラ・シリーズを挙げる人が多いだろう。しかし気流子は、昭和36年公開の「世界大戦争」(松林宗恵監督)を思い出す。
その年の芸術祭参加作品でもある。「連邦国」と「同盟国」の2大勢力の対立で第3次世界大戦が勃発するという映画だ。
人々が核攻撃に怯(おび)え逃げ惑う様、東京やパリなど世界各国の首都が核ミサイルで壊滅する特撮映像は、小学校低学年だった気流子の脳裏に鮮烈な印象を残した。
宝田さんはフランキー堺に次ぐ準主役で、その恋人役を星由里子が演じている。二人は結婚することが決まっていたが、その幸福は世界大戦の勃発で奪われてしまう。核戦争は平凡な庶民の幸せも否(いや)応なく打ち砕くことを示し、その恐ろしさを切実に伝えている。
この映画が公開された翌年、旧ソ連がキューバに核ミサイル基地を建設したことに端を発し、キューバ危機が起きている。その60年後、ロシアがウクライナに侵攻し、ロシアのプーチン大統領は核の恫喝(どうかつ)を行い、ウクライナのゼレンスキー大統領は、侵略を止めなければ第3次世界大戦に繋(つな)がると訴えている。
宝田さんは少年時代を旧満州で過ごし、侵攻してきたソ連軍の銃撃で負傷するなど壮絶な戦争体験を持つ。その体験から平和の尊さをいろいろな場で語ってきた。亡くなる直前に起きたロシアのウクライナ侵攻のニュースを見ながら何を思っただろう。