【社説】停戦交渉 ウクライナの安全保障確立を
ロシアによるウクライナ侵略の停戦交渉が、トルコのイスタンブールで行われた。ウクライナ代表団は北大西洋条約機構(NATO)加盟を断念する代わりに、欧米諸国やトルコなどがNATOのように集団防衛義務を負う形でウクライナの安全を保証する「新しい仕組み」の必要性を強調した。
「新しい仕組み」を提案
本来であれば、NATO加盟を目指すか否かはウクライナが決めることであり、ロシアの侵略で加盟を断念させられることがあってはならない。停戦に向け、ウクライナにとっては苦渋の決断だと言える。
ただ自国の安全保障体制を確立するため、NATOに代わる「新しい仕組み」を提案したのは当然のことだ。ロシアとしては、ウクライナのNATO加盟を阻止して「中立化」は実現できるものの、欧米の関与が強化されることでウクライナへの影響力が低下することは必至だ。
ウクライナとの「歴史的な一体性」を主張してきたロシアのプーチン大統領には受け入れ難いだろう。しかし、これ以上ウクライナの主権をないがしろにすることは許されない。ロシアは「新しい仕組み」を認めなければならない。
さらにウクライナは、ロシアが2014年に一方的に併合した南部クリミア半島の帰属に関し、2国間の対話を通じて15年以内に解決することを呼び掛けた。これも本来は、ロシアがすぐにウクライナ領土であることを認め、軍を撤退させるべきである。15年という期間は長過ぎるくらいだ。
両国の代表団はオンラインで断続的に接触してきたが、対面の協議は今月7日にロシアの同盟国ベラルーシで行われて以来で4回目。トルコのチャブシオール外相は「(2月28日の)交渉開始以来、最も重要な進展が見られた」と述べた。国際社会は一日も早く停戦を実現できるよう、ウクライナへの最大限の支援とロシアへの制裁強化を進める必要がある。
一方、ロシア国防省は首都キエフなどウクライナ北部での作戦を大幅に縮小すると発表。交渉でロシア側は「交渉進展のため、作戦縮小を決定した」として融和的な姿勢を見せた。
現在もキエフ郊外では空爆などが続いており、ロシア側の発表を真に受けるべきではないだろう。バイデン米大統領はロシアの作戦縮小表明について「(真意は)そのうち分かる」と述べ、慎重な見方を示している。
もっともロシアがウクライナへの侵略後、短期間でのキエフ制圧やゼレンスキー政権の転覆に失敗したことは事実だ。ロシア軍参謀本部は南東部の作戦に注力する方針を示している。作戦縮小表明の背景には、日米欧からの制裁で経済危機への懸念が高まる中、国民に戦果をアピールしようとの焦りがあるとみることもできよう。
民間人虐殺を停止せよ
南東部の激戦地マリウポリでは、子供約210人を含む約5000人が犠牲になった。クリミア半島を含む南東部一帯を支配する狙いがあるのだろうが、無差別攻撃による民間人虐殺は言語道断の蛮行である。すぐに停止すべきだ。