政府のPB黒字化試算に「楽観的」「現実離れ」と批判の朝毎日経3紙

株価チャートのイメージ

3%超の成長率想定
 15日付朝日「口先だけで済ませるな」、16日付毎日「甘い想定を続ける危うさ」、日経「財政の悪化を直視し抜本改革に備えよ」――。

 内閣府が政府の経済財政諮問会議に提出した中長期の経済財政試算で、財政健全化の目安となる基礎的財政収支(PB)黒字化の実現時期を名目3%超の高い経済成長が続く「成長実現ケース」で2026年度とし、政府が25年度の黒字化目標を堅持する方針を決定したことに対する3紙の社説見出しである(他紙は論評なし)。

 厳しい論調である。政府が財政再建目標を堅持するに至った「成長実現ケース」の3%超という名目成長率は、1995年度以降では1度しかなく、この成長率が何年も続いた上での試算だから、各紙が「楽観的に過ぎるのではないか」(朝日など)というのも確かにそうで、「現実離れしているといわざるを得ない」(日経)というのも理解できる。

 もっとも、毎日も「甘い想定」と批判するこの前提は、あながち、考えられないわけではない。朝日が指摘するように、「目標の達成はコロナ禍で絶望視されていたが、一転して可能性が出てきた」面があるのである。

 「飲食・旅行業界などは打撃を受けているものの、輸出企業を中心に大企業の業績や株価は堅調で、想定と異なり、20年度の税収はむしろ伸びたからだ」(朝日)。ただ、それでも朝日は「目標達成は容易ではない」と強調するのである。

 政府の試算では、21~26年度の名目成長率が1%台で推移する「ベースラインケース」も示され、この場合、PBは31年度になっても4・6兆円の赤字で、黒字化は実現できない。日経は「こちらをメインシナリオに据える方がまだ現実的なようにもみえる」とまでいう。

健全化目標に問題も

 岸田文雄首相は財政について、「経済あっての財政であり、優先順位を間違えてはならない」と言っているから、「新しい資本主義」の実現とともに経済の再生を目指すに当たっては、財政再建目標の凍結を表明した方が正直で分かりやすい。

 そもそも、PBを採用した財政健全化目標は民主党菅直人政権時代に採用され、20年度までに黒字化するとしたが、経済状況を考慮することなく決められ、問題が少なくなかった。

 この目標は、成長重視の安倍晋三政権にも引き継がれ、民主党政権時代に「社会保障と税の一体改革」で民主、自民、公明の3党で合意した消費税増税を実施したため経済を傷め、18年に目標時期を25年度に先送りするなどした。机上の計画に縛られ近視眼的に増税などの健全化策を実施しても想定通りにはいかないということである。

近視眼的な取り組み

 小欄でたびたび、健全化目標達成への近視眼的な取り組みについて批判してきたが、これまで3紙を含む大手紙はそれを支持してきた。今回も朝日、毎日は同様である。

 朝日は「歴代の政権は、財政再建の期限が迫る度に達成の時期を先送りしてきた。目標堅持を口先だけで終わらせてはならない」と見出しに掲げたように批判したが、先送りに至った原因が、自らが支持した消費税増税など近視眼的な政策を、経済状況を考慮することなく健全化計画に沿って進めたことにあることの自覚がない。毎日も同様である。

 日経は、前述の通り、政府の試算についは朝毎と同様に強く批判しているが、「もちろん成長率の押し上げは重要である」と、岸田政権のデジタル化やグリーン化の促進策を挙げて、それによって「多くの税収を確保するのは、財政再建の有力な手段の一つだろう」と評価。しかも、「コロナ禍のいまは困難でも、いずれは歳出入の抜本改革に取り組む必要がある」と指摘して、経済情勢を考慮している。この点で、日経は朝毎と違いを見せた。

(床井明男)