【社説】経済対策機 を逃さず再生に取り組め


岸田文雄首相

 政府は新型コロナウイルス禍の長期化などに対応する新たな経済対策を決定した。財政支出は過去最大の55・7兆円、民間支出などを含む事業規模は78・9兆円である。

 中身に疑義あるものもあるが、岸田文雄政権の経済再生への決意の表れと評価したい。新規感染が抑え込まれている機を逃さず、速やかに効果的に実施に移してもらいたい。

 18歳以下に10万円給付

 今回の経済対策は、コロナ禍で傷んだ経済の再生と、岸田首相が掲げる「新しい資本主義」の具現化が大きな目的である。

 経済の再生は言を俟(ま)たない。1年半以上に及ぶコロナ禍で飲食・宿泊、旅行・レジャー、鉄道・航空などの業界は大きな打撃を受け、経済活動は10月からやっと正常化へ踏み出したばかりであり、すぐに事業が回復して軌道に乗るわけでもない。売り上げが減少した事業者への給付金などは、手続きを簡素化し迅速に対応してもらいたい。

 新しい資本主義は「成長と分配の好循環」によって分厚い中間層を構築することが狙いである。今回の対策では、分配戦略の一環として、看護、介護、保育、幼児教育分野での賃上げを盛り込んだ。これらの分野はもともと仕事の割に賃金が低かっただけに、賃上げは従事者のモチベーションの向上と共に離職者の歯止め、ひいては従事者の増加につながるものにしたい。

 対策の目玉の一つになっているのが、18歳以下の子供への10万円相当の給付金支給である。親の年収が960万円未満の世帯が対象で、中学生以下は申請を待たずに年内に現金5万円を支給し、残る5万円分は来春までにクーポンを追加支給する。クーポンは貯蓄に回さず必ず消費してもらうためである。

 それはいいとして、給付金の趣旨がコロナ禍の長期化で苦境にある人の生活を支援するというものであれば、所得制限をもう少し低くした上で、子供の有無に関係なく全ての世帯に支給すべきであろう。そうすれば、より趣旨に添うとともに、ほかに対象として挙げている住民税非課税世帯や、厳しい状況にある学生、生活困窮者らへの給付も、制度的に一本化され、迅速化できるのではないか。

 経済対策は大きければいいというわけではない。2020年度一般会計予算は歳出総額が175・7兆円に達し、執行の遅れで30・8兆円を21年度に繰り越した。

 もっとも、これには当時、未知のコロナとの戦いに試行錯誤し、手続きなどの面で遅れたこともあろう。今回はこれまでの経験を生かすことができ、幸いにもワクチン接種の進展もあり感染を抑え込んでいる。感染拡大防止策は引き続き必要だが、経済対策を中断なくスムーズに執行できる環境にある。

 成長力強化の施策を

 7~9月期の実質GDP(国内総生産)は輸出も伸びず、個人消費、設備投資など総崩れとなった。今回の対策で底割れを防ぐとともに、内需主導経済の基盤づくりとしたい。分配を支える成長も大事である。財政健全化を無理なく進めるためにも、成長力強化の施策がもっとあっていい。