トヨタのEV戦略強化に「危機感」垣間見る東京、「期待」の日経・産経

写真は三菱自動車 EV SUVのコンセプトカー「e-EVOLUTION CONCEPT」=第45回東京モーターショー2017

消極的イメージ払拭
 トヨタ自動車が電気自動車(EV)戦略の強化を発表した。これまで、2030年のEV世界販売目標を、燃料電池車(FCV)を含め200万台としていたのを、350万台へ引き上げ、30年までにEV30車種を投入し、高級車「レクサス」はEV中心のブランドにする。そのための投資額は、車載用電池への2兆円を含め4兆円という。

 この発表に対し、新聞では日経、産経、東京の3紙が社説で論評を掲載した。見出しは次の通りである。16日付日経「トヨタのEV巻き返しに期待する」、17日付産経「トヨタのEV販売/総合力で競争を勝ち抜け」、東京「トヨタEV戦略/試される巨人の本腰」――。

 東京は中日新聞東京本社が首都圏で発行する新聞であり、今回の社説は中日と内容は同一である。地元企業を扱ったテーマだからか、3紙の中では、見出しの通り、東京(=中日)の慎重な論調が目立った。本文の中でも、今回の発表に「トヨタの危機感が垣間見える」としたのである。

 同紙が垣間見た「危機感」とは、トヨタがより先進的な燃料電池車なども手掛けながら、環境団体や米メディアから「EVに後ろ向き」と指摘され、消極的なイメージが定着するのを払拭(ふっしょく)したい思惑があったこと、また、「それ以上に」欧米を中心としたEVシフトの流れが「予想を超えて急だった」ことである。

 同紙は「脱炭素」の時代に乗じて、主流を日本勢が得意とするハイブリッド車(HV)からEVに変えて、「世界市場の覇権を握りたいという欧州の戦略が明白になってきた」と指摘する。

 確かに、トヨタの豊田章男社長は、EV一辺倒の動きに異論を唱え、HVやプラグインハイブリッド車(PHV)、走行時に水だけで二酸化炭素(CO2)を排出しないFCV、水素エンジン車など全方位戦略で取り組んでいる。

 しかし、英国が30年までにHVを含むガソリン車の新車販売を禁止するなど、「日本勢にとってもちゅうちょする状況ではなく、販売台数の約八割が海外市場のトヨタには、負けられない戦いである」(同紙)というわけで、尤(もっと)もな指摘である。地元愛、地元企業愛ゆえの心配性という感じか。

新戦略で巻き返しへ

 その点、日経は「ようやく本腰を入れる」とし、「まずは先行する欧米勢に負けない車作りを期待したい」と前向きに評価した。

 環境性能をめぐるイメージの低下には「日本車全体のブランド力に直結する」と懸念し、「トヨタなどメーカー各社は高品質で燃費が良いという評価を得てきただけに、手をこまぬいてはいられない状況だ」と指摘はするものの、レクサスを35年までにすべてEVにすると決断したことを「大きな前進」とした。

 日経は特に、このレクサスのEV移行はすでに米テスラやドイツのEV高級車を支持する、環境への意識が高い顧客層と重なるため、「日本車のブランド力を左右するだけの影響力があり、トヨタの新たな戦略による巻き返しに期待したい」と一際高く評価。

 350万台との目標についても、毎年1000万台前後を販売するトヨタにとって、まだカーボンニュートラルの達成に向けた中間目標という位置付けだろうが、独ダイムラーなど世界的なメーカー1社分に相当する規模であり、「現時点では思い切った数値目標といえる」とした。

 また、同社がEVに傾斜せず、全方位戦略を取っていることにも「当面の選択肢として…合理的な判断」としたが、妥当な見解だろう。

政府の後押し不可欠

 産経も「意欲的な計画」と評価し、「インフラ整備を含めて日本車のEV化を牽引(けんいん)してもらいたい」と期待を表明。ただ、EV転換だけで生き残れるわけではないとも指摘し、自動車メーカーとしての総合力が問われるとして、「政府の後押しによる官民一体での競争力強化が不可欠である」と訴えた。

(床井明男)