中国への外交ボイコットより民主主義サミットに矛先向くサンモニ
非難決議語る玉木氏
中国で北京冬季五輪が来年2月4日に開幕するのを前に、人権侵害を理由に閣僚などを派遣しない「外交ボイコット」の動きが相次いだ。6日の米国の発表に続いてオーストラリア、ニュージーランド、イギリス、カナダも表明し、わが国も24日に松野博一官房長官が閣僚ら政府代表団を派遣しないと発表した。
この間、岸田文雄首相が態度を保留したこともあり、報道番組でも外交ボイコットが議論になった。19日放送のフジテレビ「日曜報道ザプライム」に出演した自民党の佐藤正久外交部会長、国民民主党の玉木雄一郎代表は、明快にボイコットを支持。
「米国やオーストラリアが態度を表明している以上、政府高官を派遣しないと明言すべきだ」「ウイグルの問題に黙っていることは絶対におかしい」(佐藤氏)、「高官は送るべきではない」(玉木氏)と訴えた。このような与野党の声や世論に結果的に政府は動かされたのだろう。
しかし、国会は慎重論の壁が厚い。玉木氏は「今の中国の人権状況に対する国会非難決議も今回(21日閉幕した臨時国会)も見送りになった。それも自民党内の話で今回もいわば腰砕けになって」いると苦言を述べた。野党より与党に佐藤氏らとは別に存在する自民党内、公明党などに慎重論の重い雲が覆っている。
米国議会のように人権問題について中国に対しても超党派でコンセンサスができていたなら、政府も早く態度を示し得たかもしれない。国会は言論の府・世論の府でもあり、目に余る問題には是々非々で厳しく採決すべきだ。
大宅氏頷くCGTN
中国に対する歯切れの悪さは、人権重視のはずのTBS「サンデーモーニング」(12日放送)の出演者も同じで、外交ボイコットを支持する発言はなかった。
番組は、中国が来年、有人宇宙ステーション完成とともに冬季五輪を国威発揚の場にしようとする一方、新疆ウイグル自治区で少数民族のウイグル人を強制収容した動画と共に米国などの外交ボイコットの動きを報じた。
また、バイデン米大統領が民主主義の結束のため110カ国・地域を招待したオンラインの「民主主義サミット」と、同じ時期に中国の英語による国営放送CGTNが警官による黒人暴行死事件など米国の民主主義を批判する放送を流したことに触れた。
むしろ出席者のコメントは、中国の人権侵害に矛先を向けるよりも、民主主義サミットを開いた米国や外交ボイコットを冷ややかに評した。政治学者の姜尚中氏は「光の国と闇の国の対立とするのではなく、中国共産党にもいろいろな人がいるのだから、どう中国の改革を進めるかしていかないといけない」と述べ、同サミットを疑問視。
評論家の大宅映子氏は「ある意味中国が正しい。米国の人種差別の現状を見るとひどい」とCGTN放送内容に同調。民主主義サミットも「専制主義と民主主義で分断するような方向が見えるから怪しい」と批判した。
しかし、報道の自由の有無が問題のはずだ。どの国にも人権問題はある。米国内の数々のメディアが暴行死事件から「ブラック・ライブズ・マター」世論を盛り上げたことを見れば、CGTNはその模倣だ。同じように自国の少数民族弾圧や人権侵害を批判するわけでもなく、逆に打ち消しているのがCGTNだ。
ジャーナリストの青木理氏も同サミットを念頭に、「分断を煽って、ユニットにして敵対という形にしていくと、その対立が分断から紛争に進んでいくことが一番怖い」と言う。米国を批判したがるのか中国に問題が向かない。
香港の二の舞い防げ
番組では、民主主義サミットでの台湾デジタル担当相オードリー・タン氏、香港の民主活動家・羅冠聡氏の訴えを引用していたが、同サミットは台湾を香港の二の舞いにしないように中国に民主主義を侵害させないというデモンストレーションに意義があったのではないか。
(窪田伸雄)