ウクライナ危機 外交的解決策の模索をー元米大統領副補佐官 フレッド・フライツ


ウクライナ危機 識者に聞く

元米大統領副補佐官 フレッド・フライツ氏

 Fred Fleitz 1962年生まれ。米中央情報局(CIA)、国務省、下院情報特別委員会などで計25年間勤務。ブッシュ(子)元政権ではジョン・ボルトン国務次官の首席補佐官、トランプ前政権では大統領副補佐官・国家安全保障会議(NSC)事務局長を務めた。現在、米国第一政策研究所・米国安全保障センター副所長。

ウクライナ侵攻へのバイデン米政権の対応をどう評価するか。

 さまざまな面で失望している。ロシアの戦車がウクライナ国境に向かっている時点で、プーチン大統領と交渉していたら、侵略は避けられた。

 それは軍事行動が差し迫っていることを示す非常に深刻な兆候であり、プーチン氏を安心させる方法について真剣に交渉を始めるべきだった。それは、ウクライナ政府に中立を約束させることだったかもしれない。

 侵攻後の制裁については、もっと断固とした姿勢を示すべきだった。ロシアからの石油禁輸については、議会が立法を通じてこうした制裁を実施すると脅した後、バイデン政権はようやく実施した。

 バイデン大統領や他の西側諸国の指導者は、交渉にもっと重点を置くべきだ。ロシア軍はウクライナのすべての都市を破壊する力を持ち、膨大な数の人々が殺される可能性がある。

 今は外交的解決策を模索する時だ。米国の政治家から、プーチン氏は暗殺されるべきだ、顔面を殴ってやりたいなどといった声が上がっているが、それでは事態は解決しない。

経済制裁はプーチン氏の侵攻を止めることができるか。

 現在の制裁は非常に厳しいものだ。ロシア国民だけでなく、プーチン氏を支持するロシアの指導層と新興財閥(オリガルヒ)の二、三百人に痛みを与えるものだ。

 これはプーチン氏に大きな影響を与えるだろう。これと、予想をはるかに上回るロシア軍の損失が相まって、プーチン氏を交渉のテーブルに着かせることを願っている。

 プーチン氏は敗北することを望まないだろう。ロシアの軍隊を撤退させつつ、体面を失うことを避ける方法はあり得る。

どういった形で外交的に解決し得るのか。

 仮に人間の行いに対して公正な結果が返ってくる世界であれば、プーチン氏は戦争犯罪者として起訴され、同氏と侵略に関与したすべての人が投獄されるだろう。だが残念ながら、核兵器の存在する時代にはこうしたことは起きない。

 ウクライナ政府は、中立性を約束するだけでなく、クリミア半島におけるロシアの主権、場合によっては東部のドネツクとルガンスクの独立を認めざるを得ない可能性もある。

 もちろん両者にとって妥協することは困難だ。しかし、両者はこうした線に沿って合意を受け入れる可能性も示唆している。率直に言って、今の状況では誰も勝者にはなり得ない。

プーチン氏は核兵器の使用を示唆したが、その意図は何か。

 それが単なる脅しであることを望むが、ある国家が核兵器を使用すると脅す時は、常に真剣に受け止めるべきだ。

 これは、北大西洋条約機構(NATO)もしくは米国が直接的に介入すれば、核兵器を使用する可能性があるというプーチン氏の威嚇だ。それが戦術核兵器の使用を意味するのか、西ヨーロッパで低出力の核兵器を発射することを意味するのかは分からない。バイデン政権はこうした懸念により、ウクライナへの戦闘機の供与を拒否したようだ。

 しかし、プーチン氏が米国がウクライナに提供した対戦車ミサイルと対空ミサイルに不満を募らせていることは明らかだ。プーチン氏にとってのレッドライン(譲れない一線)はまだ越えていないようだが、多くの関係者がそのラインがどこにあるか懸念している。

プーチン氏の凶悪性は不変

プーチン氏の精神状態に異変が起きたとも指摘されている。

 何年にもわたってプーチン氏と会ってきた人たちが最近、同氏が不安定で理性を失ったと指摘している。しかし、そうではないとする専門家たちは、プーチン氏は常に血に飢えた凶悪な人物であったとしている。

 プーチン氏は過去に敵を殺すために毒を使用し、チェチェンの首都グロズヌイへの破壊的攻撃を命じた。同氏が戦争犯罪や民間人への軍事力の甚だしい乱用を行ったのは今回が初めてではない。

 プーチン氏の現在の行動と戦術は、過去のものとさほど変わらない。これが精神的な不安定さによるものだと直ちに決め付けるべきではない。

ウクライナ侵攻がプーチン氏にとって「終わりの始まり」になる可能性は。

 この侵攻がプーチン氏だけの考えであり、ロシア軍はそれを嫌い、ロシアの人々はそれを支持していないと考える人もいる。しかし、ロシア国民は、プーチン氏がウクライナを「非ナチス化」しようとしているといった多くのプロパガンダを注ぎ込まれている。

 プーチン氏を支持するエリートや軍隊がやがて同氏を打倒しようとする可能性はある。しかし、プーチン氏は恐らく秘密諜報(ちょうほう)機関を強力に掌握しているので、それは非常に難しいかもしれない。

 それでも、プーチン氏が打倒されたり、辞任や亡命をしたりする可能性は排除すべきでない。

(聞き手=ワシントン・山崎洋介)