ソロモン諸島暴動の底流

中国、南太平洋の覇権構築へ
軍港を視野にツラギ島租借

 中国の一帯一路構想はユーラシア大陸を陸路と海路で東西を結ぶだけでなく、一本の短刀のように南太平洋にも突き出ている。その戦略的狙いは米豪の分断にあり、太平洋での覇権構築を遠望している。
(池永達夫)

11月26日、ソロモン諸島のホニアラにある中華街で、暴徒に放火され煙を上げる建物(AFP時事)

 南太平洋の島国ソロモン諸島とキリバスが相次いで台湾との外交関係を断絶し、中国と国交樹立に動いたのは2年前の9月だった。

 そのソロモン諸島の首都ホニアラで11月24日、およそ住民1000人がソガバレ首相退陣を求めた。抗議活動はやがてチャイナタウンが放火されるなど暴動に発展した。

 国軍を持たないソロモン諸島政府のソガバレ首相は、隣国の豪州とパプアニューギニア政府に支援を要請。空路で派遣された豪州治安部隊100人とパプアニューギニア兵士35人が鎮圧に動き、暴動は3日間で鎮静化した。

 ソガバレ首相は「暴動の背後には外国勢力がいる」などと述べ、台湾断交で懸念を表明し続けた米国や台湾の謀略があるかのような発言をした。だが、暴動のきっかけはソロモン諸島最大の人口を誇るマライタ州住民が、新型コロナウイルスワクチン接種などで差別待遇を受けていることへの不満の高まりとされる。無論、中国に傾斜するソガバレ首相の政治姿勢と賄賂疑惑、さらには台湾断交への抗議という、くすぶり続けてきた政治的反発が伏線としてあった。

 国内の治安状況悪化を招いている最大の理由は、中国の野心に対する懸念であり、それに寄り掛かろうとしているソガバレ首相への反発だ。

ソロモン諸島とその周辺の地図

 中国は2年前、ソロモン諸島と国交を結ぶと、直ちに首都ホニアラがあるガダルカナル島の北に位置するツラギ島の租借に動いた。

 その尖兵(せんぺい)役を担ったのが中国国営企業の中国森田企業集団で、石油精製や経済特区建設を名目にツラギ島の75年に及ぶ独占開発権を得た。しかも75年後も更新可能とされていることから、事実上、永久租借に近い。

 ツラギ島は面積約2平方キロメートル、人口約1200人の小島だが、中国がここに拠点を構えた最大の理由は天然の深海港を擁していることにある。

 港湾を整備すれば石油精製のためのタンカーを横着けできるだけでなく、軍艦船の寄港が可能となる。かつて第2次世界大戦時、日本軍は南進の最前線としてツラギ島を組み込み、海軍艦船の停泊地とした歴史がある。

 中国の「一帯一路」構想の特質は、経済開発と安全保障が絡んだ軍事拠点の確保が一体となっていることだ。

 南太平洋に伸びた一帯一路構想も、インフラ投資と経済援助で政治的影響力を強めながら、軍事拠点化を着実に進めている。

 中国はバヌアツのルーガンビル港を水深25メートルの深海港に改修し、空母の接岸も可能とした。

 またトンガからは、赤道上空の静止軌道の使用権を5000万ドル(約57億円)で取得した。米国のGPSに依存することを嫌った中国は、独自の衛星測位システム「北斗」を始動させているが、これをミサイル誘導など軍事利用するには、静止軌道が必要とされる。南太平洋に展開する一帯一路構想の戦略的狙いは、太平洋の覇権構築を遠望する米豪分断にある。