「『一つの声』だけでは不健全」と中国の言論統制強化を批判した東京
ネット空間も規制へ
中国政府は10月下旬、SNSなどインターネットサービス事業者がニュースを転載してもいいメディアの最新リストを公表した。中国共産党の機関紙「人民日報」や国営の「新華社通信」をはじめ、党や政府系のメディアが多くを占める一方、独自報道で知られる「財新」など民営メディアが外され、情報統制が強化された。
東京新聞がさっそく先月22日の社説「中国の言論統制 残るのは『党の喉と舌』」で社論を張った。
ネットニュースの規制強化に動く実態は、隣国中国の政治状況を映し出す鏡で大事なテーマだが、残念ながら他の大手紙は社説に取り上げることはなかった。
同社説では「中国はメディアを単なる宣伝機関にすぎないととらえ、共産党や政府の『喉と舌』と呼んできたが、ネット空間でも当局お墨付きの記事しか見られなくなる」と批判した。
共産党専制政治と民主国家の違いの一つは、報道と言論の自由があるか、ないか、だ。
共産党政権下では、活字媒体にしろ、映像媒体にしろ、メディアはプロパガンダの尖兵であり、共産党政権の広報という認識でしかなく、権力のスキャンダルを暴き、政権の路線や政策に対しても是々非々で迫る西側ジャーナリズムとは一線を画する。「民は由らしむべし、知らしむべからず」といった封建時代の時代錯誤がいまだ続いているのが、中国の政情だ。
なおメディアの統括本部が、中国共産党中央宣伝部だ。
中国国内の新聞や出版、教育、テレビ、ラジオなどは宣伝部から指導、監督を受け、日常的に規制を受けている。党の路線に反した記事や文学、論文は、宣伝部によって報道禁止や発禁など法的処分を受けることになる。
今回の言論統制の強化措置は、これまで厳しく検閲・管理してきた新聞やテレビといった従来の言論や報道空間だけでなく、新たにネット空間にも鮮明に規制の網を広げ、党のプロパガンダ以外の言論を許さぬ姿勢を鮮明にした。
ネット普及に危機感
中国インターネット情報センター(CNNIC)によると、人口14億人を擁する中国で昨年12月現在、インターネット利用者数は9億8900万人とネット普及率は70%を超え、その9割以上がスマホなどの携帯端末でネットを利用している。
この巨大な媒体に成長したネット情報を手なづけておかなければ、共産党政権の求心力は維持できなくなると危機感を抱いたことから今回の措置に至ったもようだ。これは、今の中国で世論に最大の影響力を持つネット空間から、党や政府を代弁する声以外は完全に排除しようとする言論封殺と言える。
中国共産党政権は今年6月、対中批判を続けてきた香港の蘋果日報(リンゴ日報)を廃刊に追い込んだ。創業者の黎智英氏はいまだ牢獄(ろうごく)の中だ。
さらに最近の中国では、IT(情報技術)企業や教育、芸能界などに統制強化の嵐が吹き荒れる。
国家の命に関わる病
東京の社説は「党や政府が公認する『一つの声』しか存在できない社会は、断じて健全ではない」と締めているが、真実の口を封じる言論統制は不健全な病どころか国家の生命に関わる致命的な問題だ。
2019年12月30日、武漢市の歯科医・李文亮氏は同僚の複数医師に対し、感染症のアウトブレイクが起きていると警告するメッセージを送信。防護服を着用して感染を防ぐようアドバイスしたが、当局者は当初、李氏をデマゴーグと決めつけ、新型コロナウイルスに関する情報を封印しようとした。
今、中国に求められるのは共産党政権を守るための情報統制ではなく、中国のサバイバルに必須となる真実を告げる大勢の李文亮氏だ。
(池永達夫)