女性蔑視発言で状況一変

トランプvsヒラリー 米大統領選まで1カ月(下)

 米大統領選で民主党候補ヒラリー・クリントン前国務長官と接戦を繰り広げてきた共和党候補ドナルド・トランプ氏が、一転して窮地に追い込まれる可能性に陥った。女性に関してわいせつな発言をしていたことが発覚し、共和党内からも撤退を求める声が広がっているのだ。

ドナルド・トランプ

女性蔑視発言が批判を集め、動画を公開し謝罪する共和党候補ドナルド・トランプ氏(同氏の公式ツイッターより)

 問題となっているのは、トランプ氏が2005年に収録されたテレビ番組の待機中に、「スターなら(女性は)何でもやらせてくれる」「既婚女性と性交渉を持とうと誘った」などの発言を繰り返した内容の録音が流出したことだ。7日にワシントン・ポスト紙が報じ、すぐに女性蔑視発言だとの批判にさらされた。

 当初、トランプ氏は「更衣室での冗談のようなものだ」などとしていたが、批判は収まらず共和党内から公然と非難の声が上がった。これまでにも女性に対する発言で物議を醸してきたトランプ氏だが、今回はかつてないほどに大きな波紋を広げ、大統領選への影響は避けられない状況だ。

 ポール・ライアン下院議長は「辟易(へきえき)している。女性を物のように見てはならない」とし、8日に行った集会へのトランプ氏の出席を拒否。ジョン・マケイン上院議員も「性的暴行を自慢するかのような発言は、条件付きの支持であっても続けることはできない」とし、「トランプ氏に投票しない」との声明を発表した。

 また、マイク・ペンス・インディアナ州知事は「許し難く擁護できない」と強調し、副大統領候補としては異例の批判を展開した。

 危機感を強めたトランプ氏は8日未明、「私が間違っていた。謝罪する」と神妙な顔つきで語る謝罪動画を公開。メラニア夫人も「夫の発言は容認できず不快だが、人々が彼の謝罪を受け入れてくれることを望む」とする声明を発表した。

 ただ、党内からは撤退を求める強硬論が続出している。トランプ氏は「撤退は絶対にない。支持者を失望させない」と強調するが、CNNテレビは関係者の話として、共和党内でペンス氏を大統領候補に変えるシナリオも検討されていると報じた。

 ただでさえトランプ氏は、クリントン氏にリードされ苦しい状況にある。政治専門サイト「リアル・クリア・ポリティクス」が世論調査を基に割り出した8日時点の選挙人獲得予測は、クリントン氏が当選ラインの270人にあと14人と迫る256人だったのに対し、トランプ氏は165人だった。

 今回の女性蔑視発言でトランプ氏の支持率が落ち込むのは確実視されており、クリントン氏優位の流れは一段と強まりそうだ。

 こうした状況から、共和党全国委員会のマイケル・スティール前委員長からは次のような言葉も飛び出した。

 「壊滅的な打撃だ。もはやトランプ氏の逆転はないだろう」

(ワシントン・岩城喜之)