若年層取り込みカギに

トランプvsヒラリー 米大統領選まで1カ月(中)

 「ヒラリー・クリントン前国務長官は大統領になるための経験と気質をすべて持っている」

 先月28日にペンシルベニア州の大学で行われた集会。ミシェル・オバマ米大統領夫人はこう強調し、共和党候補ドナルド・トランプ氏を大統領にさせないためにクリントン氏を支持するよう呼び掛けた。ミシェル夫人が訴えた相手は2000年以降に成人年齢に達した「ミレニアル世代」を中心とした学生たちだ。

ミシェル・オバマ

9月28日、ペンシルベニア州の大学で学生らにヒラリー・クリントン前国務長官の支持を訴えるミシェル・オバマ米大統領夫人(UPI)

 選挙戦終盤に入り、クリントン陣営が狙いを定めるのがこうした「ミレニアル世代」の票だ。すでに有権者の多くが誰に投票するか決めているが、若年層はまだ投票先を決めていない人が多いためだ。

 全世代に占める「ミレニアル世代」の割合が急増していることも、陣営が若者の取り込みに躍起になっている理由と言える。

 米調査機関ピュー・リサーチ・センターの調査によると、昨年の時点で1981年以降に生まれた有権者数は7540万人で、第2次世界大戦後に生まれた「ベビー・ブーム世代」の7490万人を上回り、「米国で最大の世代になった」(同センター)。

 クリントン陣営はこうした層の取り込みを図るために大学で多くの集会を開き、若者に人気のあるミシェル夫人のほか、バーニー・サンダース上院議員やリベラル派を代表するエリザベス・ウォーレン上院議員らを次々と投入してきた。

 だが、こうした戦略も期待ほど効果は上げられていない。キニピアック大学が9月中旬に発表した調査によると、「ミレニアル世代」のうちクリントン氏に投票するとした人は31%で、トランプ氏は26%だった。若者に狙いを定めた選挙運動をあまり展開していないトランプ氏と5ポイントしか差がなく、支持拡大は思うように進んでいるとは言えない。

 民主党は当初、08年と12年の大統領選でオバマ氏の当選を後押しした若年層が、同じ党候補のクリントン氏支持にそのまま回ると考えていた。だが、党指名争いで「ミレニアル世代」の多くがサンダース氏に流れ、今は小政党「リバタリアン党」候補のゲーリー・ジョンソン氏が受け皿になるなど誤算が続いている。

 クリントン氏が若者の支持を集められないのは、「ワシントン政治」の代表的人物だとみられていることが大きい。

 「ミレニアル世代」の特徴として「反ワシントン」で「反ウォール街(金融業界)」の傾向がある。1993年に大統領夫人となって以降、上院議員や国務長官を務めたクリントン氏は、若者から見ればまさに既成政治家そのものであり、金融業界とのつながりも強いと考えられている。

 ただ、暴言が多いトランプ氏も若年層からの受けがよくない。このため、投票先を決めていない若者をどこまで取り込めるかが、両候補にとって選挙戦を制すカギになってくる。

(ワシントン・岩城喜之)