米大統領の覚書、総力挙げた取り組みを指示
オバマ米政権は発足以来、同性愛者ら性的少数者(LGBT)の国際的な権利向上に積極的だが、政府の総力を挙げて取り組む方針を明確に示したのが、オバマ大統領が2011年12月6日に発表した覚書だ。オバマ氏はこの中で、政府機関に「LGBT人権促進国際イニシアチブ」の推進を指示している。
イニシアチブは五つの分野から成る。一つ目は「LGBTの地位・行為の犯罪化と戦う」だ。世界には同性愛行為を犯罪とする、いわゆるソドミー法が存在する国が70以上あり、これらの国々にその撤廃を求めていくということだ。
オバマ氏は覚書でLGBTを標的とした暴力に「重大な懸念」を表明しているが、ソドミー法の撤廃を要求することは、暴力を阻止するという次元にとどまらない。同性愛を正常な性行為と見なし、そのライフスタイルを各国に認めさせることを目指しているのだ。
二つ目は「LGBTの難民・亡命者の保護」で、オバマ政権はLGBTの亡命を優先的に認めている。米紙ウォール・ストリート・ジャーナルの14年の報道によると、ニューヨークの民間団体が支援したLGBTの亡命申請は98%が認められ、その成功率は一般の亡命申請の約4倍だという。
三つ目は「海外援助」の活用だ。経済支援を利用して途上国に同性愛の受け入れを迫る脅迫的手法は、オバマ政権の「LGBT外交」の代名詞と言っていい。経済力を振りかざし、西側価値観を強引に押し付けるやり方は、アフリカ諸国から猛反発を買っており、フランシスコ・ローマ法王も「思想的植民地化」と非難している。
四つ目は「LGBTの人権侵害に対する迅速・有意義な対応」だ。中東・アフリカでイスラム過激派に迫害されるキリスト教徒らの人道危機をめぐり、オバマ政権は対応が遅い、不十分と批判され続けているだけに、この項目は過剰なLGBT偏重を際立たせている。
五つ目は「国際機関への関与」だ。オバマ政権は国連を中心とする国際機関をLGBTアジェンダ推進の「主要手段」と位置付けており、欧州諸国や同性婚を支持する潘基文国連事務総長ら同調する勢力と連携し、国際機関で精力的な取り組みを展開している。
オバマ氏からイニシアチブ推進を命じられた政府機関は、外交・対外援助を担う国務省と国際開発局(USAID)だけでない。覚書は国防総省、財務省、農務省、商務省、厚生省、国土安全保障省、通商代表部とほぼ全ての主要官庁を対象にしており、あらゆるチャンネルを使って各国に圧力をかけるオバマ政権の姿勢を示すものだ。
ホワイトハウスは6月にこれまでの国際的なLGBT権利向上の取り組みを一覧にした文書を公表した。その内容は幅広く、オバマ政権がいかに熱心に取り組んできたかがよく分かる。文書を政権最後の年に発表したのは、オバマ政権の「レガシー(遺産)」として誇示する狙いがあるとの見方が強い。
(ワシントン・早川俊行)






