米大統領の「深い情熱」
現代の公民権運動と見なす
ブッシュ、オバマ両米政権で国防長官を務めたロバート・ゲーツ氏は、回顧録「責務」で、イラク・アフガニスタン戦争に勝利することに関心が薄いオバマ大統領が唯一、軍に対して「深い情熱」を注いだのは、同性愛者が軍務に就くことを禁じた政策の撤廃だったと記している。
オバマ氏が性的少数者(LGBT)の権利拡大にそこまで熱心に取り組む理由はどこにあるのか。そのヒントは、2013年1月に行った2期目の就任演説にある。
「全ての人はみな生まれながら平等であるという最も明白な事実こそ、我々の先達をセネカフォールズやセルマ、ストーンウォールへと導いたように、今なお我々を導く星であると宣言する」
セネカフォールズとは1848年に初めて女性の権利に関する会議が開かれたニューヨーク州の町。セルマは1965年に黒人指導者、故マーティン・ルーサー・キング牧師らがデモ行進を行った、公民権運動の聖地とされるアラバマ州の都市だ。そしてストーンウォールは、69年に同性愛者が警察に抵抗して暴動が起きたニューヨーク・マンハッタンにあるゲイバーの名前で、この事件は同性愛者の権利拡大運動の転機となったことで知られる。
つまり、オバマ氏は同性愛者の権利拡大を「現代の公民権運動」と位置付けていることが分かる。白人の母親と祖父母に育てられたオバマ氏は若い頃、黒人としてのアイデンティティーを探し求め、公民権運動に強い憧れを抱いた。その経験が同性愛者の権利拡大に対する情熱を強めていると考えられる。
オバマ氏は昨年7月、ケニア大統領との共同記者会見で「アフリカ系米国人として、人々が法の下で異なる扱いを受ける時、何が起きるか、その歴史を痛いほど知っている」と述べ、黒人隔離政策や奴隷制度と結び付けて同性愛者差別は誤りであると論じた。
2013年のセネガル大統領との共同会見でも「人々が法の下で平等に扱われない時代があった。公民権のために長く困難な戦いがあった」と語っている。
オバマ氏が同性愛者の権利拡大を現代の公民権運動と位置付けることに対し、実際に運動を率いた黒人牧師から反発を買っている。黒人聖職者団体「アフリカ系米国人牧師連合」のウィリアム・オーウェンス会長は「私は同性婚のために1インチたりとも行進していない」と断言。「ゲイライツが公民権と同等に扱われる日が来るとは思わなかった」と嘆く。
また、ナイジェリア・カトリック教会のエマニュエル・バデジョ司教は、カトリック系メディアに「(米国の)黒人は人間と認められるために戦った。だが、同性愛者たちは自分たちの行為を人権と認めてもらうために戦っている。これは断じて同レベルではない」と指摘。「黒人は白人と同じように存在を認められるために戦った。だが、同性愛は変えることが可能で、病的な状態と科学的に言われている。黒人であることは病気ではなく、変えることも白人になることもできない」と、公民権運動と同列視することは誤りであると論じている。
(ワシントン・早川俊行)






