北核実験10年、キナ臭さ増す韓国

金委員長暗殺計画で「成敗」

 2006年10月9日に北朝鮮が最初の地下核実験を行ってから丸10年が経過した。北朝鮮は国際社会の非難と制裁にもかかわらず、先月の5回目実験に踏み切るまで核の実戦配備に向け兵器化を着々と進めている。韓国ではついに北朝鮮を「成敗」する計画や核武装論が持ち上がるなどキナ臭いムードが広がっている。(ソウル・上田勇実)

中国圧迫へ核武装論も再燃

 北朝鮮が5回目の核実験を強行した直後の先月12日、韓国与党セヌリ党の議員約30人から成る「北朝鮮核解決のためのセヌリ党議員の集い」(通称、核フォーラム)が緊急に開かれた。出席した韓民求(ハンミング)国防相は北朝鮮への対応と関連し、初めて「成敗」の概念に言及した。

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先月12日、韓国国会内で行われた「核フォーラム」で言葉を交わす韓民求国防相(左)と与党セヌリ党の李喆雨議員=韓国紙セゲイルボ提供

 ここで言う「成敗」とは、ミサイル迎撃や敵地先制攻撃と並んで韓国軍が北朝鮮の核・ミサイルの脅威に対抗するために進めるという「大量成敗報復」(KMPR)体系のこと。「軍内部では以前から検討が重ねられてきた」(国防省関係者)ものを今回、正式に発表したようだ。

 迎撃は韓国型ミサイル防衛システム(KAMD)と呼ばれるが、来年末までの導入が決定した高高度防衛ミサイル(THAAD=サード)が配備されてようやく二段構え。先制攻撃体制「キル・チェーン」に至っては2020年代にならないと完成しない。

 しかも北朝鮮による同時多発の飽和攻撃を迎撃するには限界があり、先制攻撃となるとさらに課題が多い。このため「最も現実的かつ効果的な抑止手段」として専門家らが提唱してきたのが「成敗」だった。そのターゲットはズバリ最高指導者・金正恩委員長である。

 「成敗」の具体的作戦について韓国では、①特殊部隊要員の侵入②巡航ミサイルによるピンポイント攻撃③無人機での空爆--などのシナリオが取り沙汰されている。

 このうち①は、いかにして要員たちを北朝鮮に上陸させるかがネック。韓国メディアはその事例として、レーダー網をかいくぐる輸送機MC130を平壌上空まで飛ばし、要員を落下傘で地上に降ろしたり、高度なステルス性を備えた214型潜水艦で北朝鮮の海岸から上陸するといったケースを紹介している。

 この暗殺計画は「斬首作戦」と呼ばれ、北朝鮮はこの作戦に早速猛反発。「斬首作戦を展開する兆しが見えたら核弾頭を搭載したノドンの即時発射命令につながる」(朝鮮アジア太平洋平和委員会)と威嚇している。

 一方、核実験に刺激されるように核武装論も再燃している。ここ10年、韓国は北朝鮮が核・ミサイル開発に邁進(まいしん)するのを止めることができなかった。盧武鉉、李明博、朴槿恵の3政権にまたがる対北朝鮮政策は少なくとも核問題において奏功せず、暴走に歯止めを掛けることができないままだ。そこで浮上したのが核武装論であり、政界でもにわかに賛同者が増えている。

 与党の代表的な核武装論者として知られる元裕哲(ウォンユチョル)前院内代表(国会対策委員長に相当)は自身のフェイスブックで次のように述べている。

 「国家安保を心配する政治家であれば北朝鮮の核の脅威に対応する政策的手段をどうするか悩むべきだ。核武装論はこうした悩みの産物であり、空虚な主張ではなく、北朝鮮の核の脅威と国際関係、国内技術を考慮すれば推進できる代案である」

 ただ、韓国政府の基本方針は「核のない韓半島」。韓国が実際に米国による核の傘に頼らず、独自に核武装するためには核拡散防止条約(NPT)を脱退しなければならない。また、北東アジア安保のさらなる緊迫化を招く韓国の核武装を、米国や中国が容認する可能性は低いと言わざるを得ない。

 結局、韓国の核武装論は「政府が口にすることはできない代わりに国会議員に主張してもらい北朝鮮を擁護する中国を圧迫する外交カードとして使う」(金泰宇(キムテウ)元韓国統一院院長)のが狙いのようだ。

 北朝鮮は10日、朝鮮労働党創立記念日を迎える。仮に6回目の核実験など追加の武力挑発が行われた場合、韓国の核武装論者をますます勢いづけそうだ。