脱「文在寅路線」 「非常識」な革新政治に歯止め


韓国の選択 次期大統領・尹錫悦氏(5)

韓国の尹錫悦次期大統領(EPA時事)

 「文政権の5年間は、われわれが半世紀以上、常識と考えてきた自由民主主義と市場経済が覆されそうになった時期。だが、尹氏当選でようやくそれにも歯止めが掛かる」
 韓国大手政策研究所の元所長は、尹氏当選の意義をこう語った。

 尹氏自身、選挙期間中に「常識が通じる国」を取り戻すと繰り返した。当選後、早速それを実行に移し始めている。

 まず文大統領が既得権保護や革新路線の「道具」として使ったとされる青瓦台(大統領府)民情首席室の廃止を明らかにした。民情首席室には司法機関を統制する機能を持たせ、文政権が「悪用した」という批判が多かった。

 文氏は「自分の後継者とみなしていた」(韓国メディア)曺国氏を、家族をめぐる各種不正疑惑にもかかわらず強引に法相に任命したり、「環境原理主義団体の手先となって推進した」(元韓国政府高官)脱原発政策をめぐり、その正当性を担保するため故意に虚偽の報告書を作成させていた疑いが浮上した。民情首席室は当時、これらを捜査した検察のトップだった尹氏に圧力を加えたとみられている。

 また尹氏は、新政権のエネルギー政策について「脱原発の白紙化、原発最強国の建設」(尹氏フェイスブックより)を掲げている。つまり文氏が無理に進めようとした脱原発方針からの大転換だ。

 尹氏は南東部・蔚珍郡(慶尚北道)の原発2基建設が5年近くも中断している事態を「国家的犯罪」と指摘し、建設を再開させると明らかにした。

 尹氏は、在任中の収賄容疑で逮捕・起訴され、現在も収監中の李明博元大統領に対する赦免に前向きだが、尹氏にとっては文氏の強権時代を終わらせる象徴的意味もありそうだ。李氏逮捕は、李氏が盧武鉉元大統領を自殺に追い込んだ張本人とみなした文政権による政治報復という側面が強かった。

韓国の文在寅大統領(EPA時事)

 尹氏の脱「文在寅路線」に文政権と「共に民主党」は反発している。

 尹氏は文氏との新旧大統領同士による面談を予定していたが、当日、突然キャンセルになった。尹氏は議題に李氏赦免を提案したが、不正な世論操作に関与した罪で収監中の文氏側近の赦免も同時に行うよう提案したとされ、文政権がこれを不愉快に思ったとの見方が広がった。

 これまで文氏が李氏赦免に応じなかったのは、側近赦免を実現させるカードとして残していたからとの観測があった。文氏が尹氏の提案を受け入れれば、それを認めることになる。いかにもバツが悪い。

 また、尹氏が就任式前に大統領府を現在の青瓦台から、国防省庁舎に移転させる方針を発表すると、文氏は移転費用の予算執行など必要な協力を拒否。「新旧政権による全面衝突」(韓国メディア)の様相を呈している。

 新旧政権が当選直後からこれほどぶつかるのも珍しいが、選挙に負けてなお強硬路線を止めない文政権や「共に民主党」の姿を、14年前、発足直後の李明博政権を窮地に追い込んだ革新派にだぶらせる向きもある。

 当時も革新から保守への政権交代だったが、革新派は米国産牛肉輸入再開に反対して「狂牛病騒ぎ」を扇動し、政権退陣運動を巻き起こした。

 革新派は尹新政権を「第2期李明博政権」とも呼んでいる。尹氏にとり、革新派の執拗な妨害は鬼門だ。

 大統領就任式は5月10日。その翌月には統一地方選挙がある。韓国はしばらく「政治の季節」が続く。

(ソウル・上田勇実)

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