「日米韓」復元へ 中朝の脅威に断固対応
今回の韓国大統領選は、得票率0・73ポイントという僅差で尹錫悦氏が勝利した、稀(まれ)に見る大接戦だった。投票終了時刻と同時に発表された地上波放送局3社による共同の出口調査でも、与党候補の李在明氏との差は極(ご)くわずか。直前の世論調査などから敗北を覚悟していた李氏陣営には一時、「十分に逆転可能」という期待が芽生え、高揚感に包まれた。
開票が進むと、前半は李氏がリード。ところが、遅れて保守の大票田である南東部の慶尚道や人口の多いソウルの開票が進むにつれ、その差はジリジリと縮まった。そして日付が変わった零時半すぎ、ついに尹氏が李氏を逆転。今度は尹氏陣営で歓声が上がった。
しかし、公共放送KBSは開票率85%まで「尹氏優勢」を出せず、ようやく「当確」を出せたのが開票率95%まで進んだ午前3時半近くだった。
多くの韓国有権者はテレビやスマホなどを通じ、固唾をのんで開票状況を見守っていたが、海外でも同じように選挙結果が出るまで気をもんでいた人物がいる。バイデン米大統領だ。
尹氏当選のわずか数時間後、バイデン氏は異例の早さで尹氏との電話会談に臨んだ。米韓の緊密な協力や北朝鮮の挑発への共同対応、とりわけ日米韓3カ国連携の必要性を強調したという。会談時刻は米国時間では夜の執務時間後だった。文在寅政権の過度な対北融和政策で「米韓の溝が深まったことを深刻に受け止めていたバイデン氏が、選挙結果の行方を心配し、尹氏当選を見届けた上で同盟強化の意志を直接伝えたかった」(南成旭・高麗大学教授)とみられる。
尹氏はバイデン氏を皮切りに岸田文雄首相、ジョンソン英首相、モリソン豪首相、インドのモディ首相の順に電話会談を行った。中国牽制(けんせい)を念頭に置いた日米豪印4カ国の戦略的枠組み「クアッド」への参加を躊躇(ちゅうちょ)していた文政権の方針を転換させる意思表示と受け止められている。
前政権からの引き継ぎと新政権の政策検討を行う「政権引き継ぎ委員会」がすでに発足し、その顔触れなどからも尹新政権の外交路線が輪郭を現し始めた。
引き継ぎ委外交・安保分科の主要メンバーで、外交・安保のコントロールタワーとなる青瓦台(大統領府)の国家安保室入りが「有力視される」(韓国メディア)金聖翰・元外務次官、金泰孝・元青瓦台対外戦略企画官、李鐘燮・元合同参謀本部次長の3人に関心が集まっている。
3人をよく知る千英宇・元青瓦台外交安保首席は「みな李明博政権で一緒に仕事をした保守派。尹新政権は北朝鮮との対話も模索するだろうが、北朝鮮に対話を乞うようなことはせず、制裁を厳格に履行するだろう」と指摘した。
日米韓の連携が復元されれば、米国を遠ざけ、反日に固執した文政権はもちろん、慰安婦問題の解決を日韓関係の入り口に置き、「日本の非」をめぐり米国に同調を求めた朴槿恵前政権でもない、「李明博政権時代に戻る」(元韓国外交部関係者)とみられている。
李政権は韓国内の反日感情を超え、日本と軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を締結し、日米韓軍事協力を一段階強化させた実績もある。
ある保守派の論客は、尹氏が僅差で当選したことについてこう述べた。
「もし李在明氏が当選していたら、韓国は米国、日本との距離をさらに遠ざけるかもしれなかった。本当に胸をなで下ろした」
(ソウル・上田勇実)