米大統領選の意味、世界的思想戦の潮流を左右

オバマのLGBT外交 米国と途上国の「文化戦争」(17)

 今回の米大統領選では「LGBT(性的少数者)外交」の是非は争点になっていない。そもそも、ほとんどの有権者は、オバマ政権が国内だけでなく海外でもLGBTアジェンダを推進し、他国から強い反発を買っていることすら知らない。それでも、大統領選の結果は、同性愛をめぐる世界的な「文化戦争」の行方を大きく左右することは間違いない。

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9日、米ミズーリ州セントルイスで開かれた大統領選の第2回テレビ討論会で激論を交わした民主党候補ヒラリー・クリントン前国務長官(右)と共和党候補ドナルド・トランプ氏(UPI)

 民主党候補のヒラリー・クリントン前国務長官が大統領になれば、LGBT外交が継続・強化されるのは確実だ。2011年のジュネーブ演説で、LGBTの権利向上を「外交政策の優先課題」と宣言した張本人だからだ。クリントン氏が創設した「グローバル平等基金」が拡充され、世界各国のLGBT活動家組織により多くの資金が流し込まれることなどが予想される。

 一方、共和党候補のドナルド・トランプ氏が当選した場合はどうか。保守系誌アメリカン・スペクテーターの寄稿編集者ジョージ・ニューマイアー氏は「社会問題に対するトランプ氏の考え方ははっきりしない。だが、キリスト教価値観のすべてを共有しているわけではないとしても、トランプ氏は世俗主義のアジェンダを他人に押し付けることに関心はない。オバマ政権のばかげた政策を終わらせるだろう」と予想する。

 全米最大のLGBT団体「人権キャンペーン」のジェイ・ブラウン広報部長は、海外メディアとの会見で「これ以上重要な選挙はない」と述べた上で、トランプ氏と副大統領候補のマイク・ペンス・インディアナ州知事を「最近では最も時代遅れな反LGBTコンビだ」と非難した。LGBT勢力はトランプ政権の誕生でオバマ政権の政策に急ブレーキが掛かることを強く警戒している。

 一方、オバマ政権の圧力を受ける途上国からは「反クリントン」の声が出ている。カトリック系メディアが昨年4月に報じた内容だが、ナイジェリア・カトリック教会のエマニュエル・バデジョ司教は、クリントン氏をこう評した。

 「世界には3種類の人間がいる。神を信じる者、神を信じない者、自分を神と思う者だ。クリントン氏は自分を神と思う人間の一人だ。宗教的価値や信念はクリントン氏にとって大切でないとしても、それを変えろと要求する権利は全くない。米国民は耳と目を開き、どのような人物が次期米大統領を目指しているのか、はっきり知ってほしい」

 同性愛論争は、共産主義をめぐり対立した冷戦時代のように世界的な思想戦になったとの見方は多い。カリフォルニア州立大学のロバート・オスカー・ロペス准教授は「20世紀は階級をめぐる世界的思想戦の時代だったが、21世紀は性とジェンダーをめぐる思想戦の時代だ」と指摘する。

 冷戦時代、自由世界を率いた米国は今、特殊な価値観を他国に押し付ける側に回っている。次期大統領がこれを強化するか、ブレーキを掛けるかは、世界的思想戦の潮流に大きな影響を及ぼすことになる。

(ワシントン・早川俊行)

=終わり=