「ゲイの楽園」目指す米大使

オバマのLGBT外交 米国と途上国の「文化戦争」(8)

ドミニカ共和国(下)

 オバマ米政権がカリブ海のカトリック教国、ドミニカ共和国に送った同性愛大使ジェームズ・ブルースター氏は、国外追放を求める宗教界の激しい反発にもかかわらず、LGBT(性的少数者)アジェンダの推進に全力を挙げている。

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2015年10月、全米最大のLGBT団体「人権キャンペーン」がワシントン市内で開催したパーティーに出席したジェームズ・ブルースター駐ドミニカ共和国米大使(右)と 夫ボブ・サタワケ氏(在ドミニカ共和国米大使館フェイスブックより)

 今年3月には、ブルースター氏の主導で、同国に「LGBT商工会議所」が設立された。米国務省傘下の対外援助機関、国際開発局(USAID)は、米国の同性愛者経済団体と連携し、途上国のLGBT経営者・起業家を支援する事業を展開しており、商工会議所設立はその中心的なプロジェクトだ。

 記者会見した米大使館のUSAID当局者は、ドミニカ共和国のLGBT権利向上のために100万㌦(約1億円)を投じる方針を発表。この中で、激しい批判を巻き起こしたのは、選挙でLGBTを支援する候補者にも資金提供すると受け止められる発言をしたことだ。

 米大使館は2日後に「米政府はいかなる政党、候補者にも資金提供しない」との声明を発表し、「内政干渉」批判の打ち消しを図った。だが、ドミニカ共和国カトリック司教協議会は公開書簡で「国家の主権と選挙法に対する違反であり、国家政策に対する深刻な脅迫行為だ」と厳しく非難した。

 国務省とUSAIDは、世界各国のLGBT活動家団体に助成金を積極的に提供しているが、これはLGBT権利拡大に前向きな政治組織や候補者を間接的に支援しているに等しい。

 ブルースター氏はLGBT商工会議所設立の際、観光ビジネスが有望な分野だと強調したが、米国の裕福な同性愛者を観光客として積極的に招く“ゲイツーリズム”の促進は、同氏がかねて力を入れていたアイデアだ。

 これに対し、中道右派政党・国家進歩勢力(FNP)のペレグリン・カスティージョ氏は、ブルースター氏が少数者の権利擁護を装い、「ドミニカ共和国をカリブ海のゲイパラダイスに変えるビジネス目標を持っている」と批判。ブルースター氏が提唱するゲイツーリズムが推進されれば、同国は実際に「ゲイの楽園」となりかねない。

 ブルースター氏はドミニカ国民の神経を逆なでする行動をなぜ平気で取るのか。国連を監視する米保守派団体「家庭・人権センター」のオースティン・ルース会長は「ブルースター氏の行動には正当な理由がある。オバマ政権がLGBTアジェンダを外交政策の中心にしたからだ」と指摘する。自分たちの行為を正しいと信じて疑わず、ドミニカ国民の反発は「雑音」(ブルースター氏)としかみていないのだ。

 オバマ政権はアフリカとともに中南米・カリブ海をLGBTアジェンダ推進の重点地域と位置付けているが、ドミニカ共和国はその「特別なターゲット」(米保守系メディア)となっている。米州機構(OAS)バチカン代表部の人権アドバイザーなどを務めるガルベルト・ガルシア・ジョーンズ氏は、米保守系ニュースサイトへの寄稿で、オバマ政権は「伝統的価値観に対する文化的ジハード(聖戦)」を遂行していると痛烈に批判した。

(ワシントン・早川俊行)