「米大使を国外追放せよ」
ドミニカ共和国(上)
性的少数者(LGBT)の権利向上を外交の「優先課題」に位置付けるオバマ米政権は、これまで7人の同性愛者を大使に起用している。この中で、任地国との間で激しい摩擦を引き起こしているのが、カリブ海のドミニカ共和国に送られたジェームズ・ブルースター大使だ。
ブルースター氏は実業家として成功を収める一方、全米最大のLGBT団体「人権キャンペーン」の理事や民主党全国委員会のLGBT指導者会議共同議長を務めた同性愛活動家だった。2012年大統領選では多額の献金を取りまとめる「バンドラー(束ね役)」として、オバマ大統領のために50万㌦(約5000万円)以上の資金を調達。外交経験は皆無だったが、オバマ氏再選に貢献した論功行賞で大使に起用された。
08年大統領選では、オバマ氏に50万㌦以上を提供したバンドラーの6人に1人が同性愛者だった。オバマ政権が国内外でLGBTアジェンダを強力に推し進める背後に、豊富な資金力をてこに民主党内で影響力を増大させるLGBT勢力の存在があることを見逃すことはできない。
人口約1000万人のドミニカ共和国は、約9割がキリスト教徒で、その多くがカトリック教徒。そんな同国に同性愛大使を送り込めば、摩擦をもたらすことは容易に予想できたが、オバマ政権はあえてこの人事に踏み切った。
ブルースター大使は就任以来、同性結婚した“夫”ボブ・サタワケ氏を公の行事に積極的に同伴させており、同性愛・同性婚を宣伝・推奨する意図的な行為だと強い反発を買っている。中でも、宗教界の逆鱗(げきりん)に触れたのが、“夫”同伴の学校訪問だ。
ドミニカ共和国カトリック司教協議会は3月に発表した公開書簡で、ブルースター氏は「歪(ゆが)んだ家庭のモデルを示すことで若者や子供を混乱させている」と非難。「学校行事でサタワケ氏を夫として見せびらかす」ことは、「子供たちに異なる価値観を押し付けようとしていると親を不安にさせている」と懸念を表明した。
「ドミニカ福音派合同協議会」のフィデロ・ロレンゾ会長も「ブルースター氏は学校を訪れ、子供や10代の若者の感情的、心理的健康に有害な要素を植え付けている」と批判。教職員団体はドミニカ政府にブルースター氏がサタワケ氏同伴で学校を訪問することを禁ずるよう要請した。
同性愛活動家のように行動するブルースター氏に対する宗教界の不満はピークに達しており、ドミニカ政府に対してこんな要求が広がっている。
「ブルースター氏を『ペルソナ・ノン・グラータ』に指定せよ」
ペルソナ・ノン・グラータとは「好ましくない人物」を意味するラテン語由来の外交用語。外交官の派遣先の国家は受け入れや特別待遇の提供を拒否する権利がウィーン条約で認められている。つまり、ブルースター氏を国外追放にしろ、ということだ。
(ワシントン・早川俊行)