緊急対談 北朝鮮の核・ミサイル開発と国際社会・日本の対応
急がれる日韓米防衛協力
“日本核武装カード”で激論
核・弾道ミサイル開発に拍車を掛ける北朝鮮に対し、国際社会と日本はどう対処すべきか。国際原子力機関(IAEA)理事会議長、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)担当大使などを歴任して北朝鮮の核問題に精通した遠藤哲也・元日朝国交正常化交渉日本政府代表と、韓国海軍将校出身で北朝鮮の軍事・諜報(ちょうほう)問題に詳しい高永喆・拓殖大学客員研究員はこのほど緊急対談を行い、北朝鮮の核・ミサイルが実戦配備され兵器として脅威となるのは「時間の問題」であり、「手をこまねいて傍観する時間はない」との認識で一致。日韓米3国は金融制裁やミサイル防衛体制の強化など、できるものから同時並行で対策を打つべきであり、特に日韓は2012年に締結直前で立ち消えとなった軍事情報包括保護協定(GSOMIA)を早急に締結すべきだと提言した。
両氏は国際社会と日本が取るべき対策として、遠藤氏が提起した①現状維持での凍結②北朝鮮の核廃棄を前提とした米朝平和協定の締結③北のレジームチェンジ(内部崩壊)④核施設等への限定攻撃⑤ミサイル防衛強化⑥対北制裁の強化――などのシナリオを検討し、先のような点で一致した。
ただ、対北制裁のカギを握る中国を動かすための方法として高氏が提案した日本、韓国、台湾の核武装論カードに対し、日米原子力協定の交渉にも携わった遠藤氏は「米国が非常に気にしていたのが日本の核武装」だと指摘。日本の核武装論カードへの反対を鮮明にし、米国による核の傘の強化とミサイル防衛の強化を通して、中国を動かしていくべきだと強調した。
北朝鮮への限定攻撃について、高氏は電子戦機を動員して北朝鮮の通信指揮系統を麻痺(まひ)させた上で外科手術的な限定的空爆を行う準備は整っており、北朝鮮が今後、6回目、7回目の核実験を行えば、米国が「戦略的忍耐」政策を捨てて限定攻撃を行う可能性も否定できなくなるとの見方を示した。
日韓は早急に軍事情報保護協定を
ICBM実戦配備は「時間の問題」―遠藤
核弾頭の小型化、搭載技術がカギ―高
米の外科手術的な限定空爆、決断のみ―高
まず金融制裁、ミサイル防衛強化を―遠藤
核・ミサイル開発の現状
遠藤 北朝鮮の核・ミサイルは不可分なものとして考えた方がいい。北朝鮮の核開発の兆候を国際社会が掴んだのは1980年代。ミサイルについてはもっと前からで、スカッドのA、B、C、D、それからノドンの開発が続く。四半世紀以上の長い歴史がある。

遠藤哲也(えんどう・てつや) 1935年生まれ。外務省入省後、在ウィーン国際機関政府代表部初代大使、国際原子力機関(IAEA)理事会議長、同省科学審議官、日朝国交正常化交渉日本政府代表、朝鮮半島エネルギー開発機構(KEDO)担当大使、駐ニュージーランド大使など歴任。元原子力委員会委員長代理。2010年、瑞宝中綬章を受章。現在、日本国際問題研究所特別研究員。
核については、80年代半ば、ウィーンにある国際原子力機関(IAEA)の日本政府代表を務めていたが、その時すでに寧辺にある再処理工場の実態が、衛星写真等で分かり始めていた。
それから紆余曲折はあるが北朝鮮は核とミサイルの開発を進めてきた。国際社会の方も色々な対応をした。非難決議、反対声明を出したり、制裁を掛けたり、ソフトな面では6カ国協議を開いたり、その前にKEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)を設立して、再処理をやめれば代わりに軽水炉2基供給するからと、いわば硬軟両作戦で北朝鮮の核開発を止めようとしたがうまくいかず、状況は次第に深刻化している。
高 われわれには北朝鮮が食糧難で貧しい国というイメージがあるが、北朝鮮の得意分野といえる核開発、弾道ミサイルに関しては最先端技術を持っている。韓国と日本と米国は、今まであまりにも過小評価してきたので、それを見直す時期ではないか。そんな意図もあって安倍首相は「新しい次元の脅威」と強い表現を使ったように思う。
遠藤 今の指摘と関連して、北朝鮮の李升基博士は日本の旧制松山高校から京大の化学で優秀な実績を残し、終戦後、韓国でソウル大学の工学部長になった。朝鮮戦争の時に北に行って、金日成主席の覚えめでたく寧辺原子力研究所の初代所長になったが、ビナロンの発明で有名でノーベル賞をもらってもおかしくない先生だった。
北朝鮮の労働者の能力も決して過小評価してはいけない。KEDOのプロジェクトで北朝鮮の労働者が日韓の技術者と一緒に仕事をしたが、その能力は非常に高いと評価されていた。
北朝鮮政権の狙い
遠藤 北朝鮮の経済は、70年代半ばぐらいまでは韓国を上回っていた。ところが、それから計画経済は伸びなくなり、韓国とのミリタリーバランスは非常に劣勢になった。北朝鮮の大砲、飛行機などは数は多いが古い型で、片や韓国は米軍の新鋭武器を導入している。そういう状況で、北朝鮮にとって核・ミサイルが軍事劣勢を挽回する起死回生の手段ではなかったか。
国内的にも金体制を支える軍部の統制のために必要で、対外的には国家の威信に関わるものだった。核開発は、そんなに膨大な金が掛かるものではなく、むしろ経済的には安上がりかもしれない。そういうところから、80年代のある時期から核・ミサイル開発に傾斜してきた。ミサイルの方は輸出用の外貨稼ぎにもなる。

高永喆(コ・ヨンチョル) 1953年、韓国全羅南道生まれ。韓国朝鮮大学卒業後、海軍将校任官。特海高速艇隊長(少佐)を経て、84年、海軍大学卒(正規18期)。89年、国防省情報本部北韓分析官、海外情報部日本担当官(防衛交流)で退官。現在、拓殖大学シンクタンク国際開発研究所客員研究員、韓国統一振興院専任教授。著書に『国家情報戦略』(講談社、佐藤優共著)、『亡国のインテリジェンス』(文芸社)など。
高 北朝鮮はなぜ核・弾道ミサイル開発にこだわるか。まず、ご指摘のように核兵器さえ持っていれば通常兵器、国防予算を節約できる。2番目は政権を長く維持するためだ。ルーマニアのチャウシェスク政権、イラクのフセイン政権やリビヤのカダフィ政権が崩壊したのは核兵器を持っていないからだと北朝鮮は考えている。核兵器を持っていれば、反政府運動が全国的に発生したり、国際的な制裁を受けても崩壊することはないだろうという受け止め方がバックグラウンドにある。
3番目の狙いは、国家の威信を高める。これに加えて、外貨稼ぎという狙いがあると思う。80年代にイラン・イラク戦争があった。その時、イラン側がイラクのバグダットに向けて発射した88発のスカッドミサイルは全て北朝鮮製だったと知られている。また、90年代から2000年度初め頃まで、世界に輸出された弾道ミサイルで、北朝鮮製のスカッドがベストセラーだったという分析資料がある。
最後の狙いは、南北統一の主導権を握ることだ。
核開発は対米交渉でのカード?
遠藤 その面もある。核のない北朝鮮は、世界で最貧国の一つ。それが世界の注目を引き、米国の関心を引くのは核のためだ。それを北朝鮮はよく知っている。
高 米国を対話のテーブルに引き出して平和協定を結びたいという狙いが背景にある。それで米朝の2国間協議になったら、韓国と日本は排除される恐れがあるし、それがもっと発展したら、米国が北朝鮮に騙(だま)されてベトナム赤化統一のような結果を迎えるのではないかと韓国や米国の保守の専門家は懸念している。
遠藤 米国と平和協定を結ぶと、韓国に在韓米軍はいらないじゃないか、北朝鮮が韓国に入って行ってもこれは国内の問題ではないかとなる。そこに狙いがあるのではないか。
北の核が実戦配備される日
遠藤 何年かは分からないが、今まで北朝鮮が必死になって核開発を進めてきてた。遅かれ早かれ、米国に届く大陸間弾道ミサイル(ICBM)ができる日は来る。もう一つは、潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の開発が進んでいる。あれが実戦配備されると米国の近くまで行って発射できるようになる。両方とも時間の問題であり、手をこまねいて傍観してはおられない。
高 SLBMが日本の経済的水域に着弾したが、発射する方角を調整すればもっと飛距離は伸びる。ICBMも北朝鮮は既に人工衛星を軌道に乗せて成功したと米国も認めている。問題は核弾頭を1000キログラムから700キログラムに小型化して搭載する技術があるかどうか。今はそういう段階だが、米国防総省は既に搭載できる段階に来ているという意見だが、国務省はそうではない、まだ遅れていると、ダブルスタンダードポリシーをとっている。
国際社会の対応への評価
遠藤 今までのやり方、非難をしたり、反対決議をしたり制裁を掛けたりするのは必要条件であるが、決して十分条件ではなかった。そこが大きな問題だ。六カ国協議といっても竜頭蛇尾というか、生きているかどうかも分からない。国連の制裁も、ちゃんとやっている国もあるが、報告すらしない国が半分以上もある。
問題は中国だ。一応、制裁に加わっているが、中国はやはり北朝鮮の政権の安定にウエートが掛かっていて、その限度までは制裁に加わるが、それ以上はやらない。いわば、半身の姿勢だ。中国から毎年約50万トンの石油が流れ込んいると推定されているが、中国の統計を見るとゼロだ。中国が制裁決議の決め手になっている。
高 北朝鮮への制裁が機能しないのは中国がかばっているからだ。中国は北朝鮮が核実験やミサイルを発射しても「暗黙の了解」というスタンスを取ってきた。これからも中国があいまいな対北朝鮮政策を取っていく可能性が高い。
北の核開発阻止への対応
遠藤 米国の北朝鮮に対する態度は非常によく動く。現在の「戦略的忍耐」はいったい何をしたいのか。北朝鮮とイランに対する態度を比較した時、外交の非常に大きなウエートをかけてイランには対応したが、北朝鮮にはそこまで行っていない。ブッシュ政権の時にテロ支援国リストから北朝鮮を外したが、なぜあの時期に外したのか。バンコ・デルタ・アジア銀行への金融制裁は非常に効いていたが途中で終わった。だから、米国の首尾一貫した北朝鮮への政策を期待している。
高 軍事専門家の間では、中国が一番恐れるのは日本の核武装だから日本の核武装論を議論すべきだという声がある。核兵器は実際に使える兵器ではなく、政治的な抑止力のためのツールだから、前向きに議論するのが一番手っ取り早い方策ではないか。韓国でも、北朝鮮の核兵器を廃棄させるという条件付きで核武装を前向きに議論すべきだという意見も出ている。
遠藤 その点は意見が違う。日本は確かに技術的には核武装は時間さえかければできないことはないと思うが、政治・外交的には核武装はすべきではない。私は日米原子力の関係に直接携わってきたが、米国が非常に気にしていたのが日本の核武装だ。核拡散防止条約(NPT)体制は、技術力と資金のある日独の核武装を抑えるために造られた。米国がNPT体制の崩壊につながる日本の核武装を認めるかというと私が知る限りはノーだと思う。
高 専門家の間では、中国を動かすためには、米国が中国に対して、北朝鮮の核開発をやめさせてほしい、それができない場合は、日本、韓国、台湾の核保有を容認するしかないと、中国に働き掛けるのが一番望ましいという話もある。
遠藤 私は、米国による核の傘とミサイル防衛を強化する方がいいと思う。中国が決め手だが、中国を抑え込める能力を持っているのは米国だけだ。日本や韓国ではない。米国も中国との経済関係もあってなかなか難しいが、米中関係の中で中国を抑え込むことをやってほしい。
6シナリオの検証
遠藤 今後のありうるシナリオとして、一つ目は、北朝鮮の現状を認めて、それを凍結するというもの。二つ目は、北朝鮮の核廃棄を前提とした米朝平和協定の締結。三つ目は、北朝鮮のレジームチェンジ、内部崩壊。四つ目は、核施設への限定攻撃。核施設だけでなくソウルに向けた38度線の大砲等も攻撃する。1994年にある程度クリントン政権が考えたシナリオだ。もう一つがミサイル防衛の強化。六つ目が制裁の強化だ。
まず、現状の凍結について、北朝鮮は今まで約束を守ってこなかったので、検証をよほどしっかりしない限り難しい。また、現状を認めるとNPT体制はどうなるのか。核開発をやった方が得か、との問題がある。
米国と北朝鮮の平和協定はよほど中身をしっかりして、米国が日韓と相談しながらやらないととんでもないことになる。レジームチェンジは仮りに内部崩壊しても、次の政権が今より良くなる保証は何もない。軍部の可能性が高いと思うが、金王朝がなくなっても軍事独裁政権が残る。
核施設などへの限定攻撃も94年に韓国で反対されたように、相当な覚悟がないと難しい。制裁はもう少し強化すべきだ。米国が、中国の遼寧省の企業に制裁を科したようだが、金融制裁をもっと掛けたらいい。金融制裁を掛けると北朝鮮は非常に困ると思う。
いくつかのシナリオはあるが、これぞというものはない。できるものから同時並行して行っていくしかない。限定攻撃だけだと大変なことになるし、今の米国にそんな力があるのかということもある。
高 米国が北朝鮮への空爆に踏み切れない背景は、韓国はスカッドの射程圏内で、ソウルは3分弱、釜山は5分弱で届く。東京はノドンミサイルが8分弱で着弾する。東京の山手線内に落ちたら大パニックになる。94年には、米国が空爆に踏み切った場合、韓国で100万人ぐらいの死者が出る恐れがあるということでやむを得ず止めた。
1番目の現状維持と2番目の平和協定の中では平和協定が望ましいが、指摘されたような問題をどう解決するか。3番目のレジームチェンジは、ソフトランディングの一つの方策として、情報心理戦で、中国と米国と韓国が、北朝鮮にビラを散布したりすることも必要だ。それで北朝鮮の住民が反政府運動を起こして、自由民主政権が生まれるように促すことが必要だ。
4番目の核施設への限定攻撃という外科手術的先制攻撃も、今、米国は選択肢として考えている。米国はこれまで「戦略的忍耐」を続けてきたが限界に至っている。今後、6回目、7回目の核実験が行われたら、米国はやむを得ず外科手術的な空爆を核施設限定で行う。その時は中国も反対できないという見方が結構ある。
米国がやるとしたら簡単だ。北朝鮮の砲兵・ミサイル部隊指揮所、空軍基地、通信基地に対する電子戦がある。電子戦機を飛ばして、通信指揮施設を麻痺させる。すると北朝鮮が動けない。指揮ができない、コミュニケーションもできない、電話、有線、無線、全部できない麻痺状態になる。いわゆる外科手術前の麻酔と全く同じだ。米国がそういう外科手術的な空爆に踏み切るかどうか、その判断だけだ。
6番目の金融制裁の強化も結構、効果が発生すると思う。最後にミサイル防衛の強化だが、韓国も日米ミサイル防衛システムに加わるべきだと思う。韓国の左派政権の時、米国に従うと膨大な国防予算が発生するから望ましくないとして、今はあいまいな状態だが、日米のミサイル防衛システムに合流すべきだ。最後になるが、韓国に戦術核兵器を再配備する選択肢もあると思う。そうすると、相当な核の傘のインパクトが生じる。
遠藤 その点に関しては、今、米国は核を使わなくても精密機械の兵器でできるのでは。また、寧辺の核施設だけでなく、ソウルを狙っているミサイル基地も同時に限定攻撃する。全部と言わないが相当部分を壊してしまえれば、ソウルが火の海までにはならなくて済むのではないか。
高 軍事専門家顔負けのご指摘だ。
遠藤 時間がない。必ず数年のうちには一番嫌な状況が来る。だから、必要にして十分に近い対策を日米韓で考えていくべきだ。できるものから同時並行で行うべきだ。まずは金融制裁であり、ミサイル防衛の強化だろう。空爆は日米韓の話でなく、圧倒的に米国の話だ。
高 ただ、最悪のシナリオとして選択肢には入っている。
遠藤 北朝鮮は、核実験をまたやると思う。
高 今年中にやるだろう。日米同盟と米韓同盟は、東アジアの安全保障を支える二つの柱だ。日米韓3カ国で軍事同盟を結ぼうという話もあるが、ウイスキーや焼酎の中に水を入れるのと同じで、日米同盟と米韓同盟で十分だ。その上で、当面必要なのは日米韓での情報共有だ。軍事衛星、偵察衛星、スパイ衛星、写真情報、人間情報などを全部共有する協定を結ぶ動きがあるが、韓国の左派勢力が足を引っ張って李明博大統領の時、締結直前でキャンセルになった。必ず早めに結ぶべきだ。3カ国間の防衛体制も早く整える必要がある。
遠藤 米韓と日米に対して、日韓だけがミッシングリンクになっている。いろいろ問題があり、一挙には無理だが、せめて情報共有をなるべくやっていくべきだ。軍事情報包括保護協定(GSOMIA)は残念だった。あれを復活してもらいたい。