夢のような独立から25年、日本からの投資に期待
グラント・ポゴシャン・アルメニア共和国特命全権大使インタビュー
世界でも有数の古い歴史を持つアルメニアがソ連崩壊の前に独立してから25年の節目を21日に迎えた。駐日アルメニア共和国大使館のグラント・ポゴシャン特命全権大使に、独立、宗教、国交樹立から24年を経過した、わが国との関係などについて聞いた。(聞き手=窪田伸雄)
民族問題には共生の哲学を
古い歴史、1月6日に祝うクリスマス
アルメニアはソ連からの体制移行で独立したが、当時をどのように迎えたか。

1953年2月1日アルメニア共和国生まれ。70年モスクワ大学数学部入学、同大学で修士号取得後ソ連科学アカデミー・コンピュータセンターで博士号を取得。91年から 2012年3月まで国際基督教大学(ICU) の専任教授。12年5月7日から駐日アルメニア共和国特命全権大使。
当時は日本にいた。ソ連崩壊の直前、1991年8月16日に来日した。その1年前に国際基督教大学(ICU)の職が決まり、家族そろって日本に来た。来日間もなく、子供を連れて外を歩いて電気屋の前を通ったらちょっとおかしいと思った。というのは、全てのテレビにモスクワのキャスターが映っていた。東京にいるのになぜだろうと思い、店内に入ってテレビを見たらゴルバチョフ氏の写真が出て、クーデターが起きたという(ソ連8月クーデター。91年8月19日)。どうなるかと心配した。
すでに、ソ連崩壊の前にアルメニアやたくさんの所で独立運動が盛り上がったところだったので、これを元に戻すというソ連の強いやり方でくるかもしれない恐ろしいニュースだったのだが、幸い、ご存じのように失敗に終わった。その後、アルメニアの場合は民主的に国民投票を経て9月21日に独立国家アルメニアが生まれた。
これは夢のようだ。ソ連時代もアルメニアの伝統、宗教を守ってきたが、経済成長し、教育・研究の面でいいこともあった。われわれはソ連の中では一番古い民族だ。いろいろな時代を越えてきた。内陸に位置し、周りにはいろんな帝国、大国に囲まれてきた。アッシリア、ペルシャ帝国、アレクサンドロス大王のマケドニア、モンゴル帝国、オスマン帝国、ロシア帝国などが来たりしたが、民族として長い歴史と深い独自の伝統・文化を持ちながら、独立国家になることは何千年も持ってきた夢だった。
もう一つはアルメニアに独立してほしいというアルメニア人が世界にたくさんいた。アルメニアの人口は300万人、世界には800万人いる。昔の東アナトリアに広がるアナトリア高地といわれる地域の10分の1しかないけれど、それでも独立国になったのはポジティブなことだった。
民族的な衝突という試練もあった。
ソ連が崩壊した時に強いパワーがなくなった。その時に問題が発生した。これをどうやって解決するかということは学者としていろいろ考えてきた。外交は国際法に従って国益を主張する。国と国だけだと国益を主張し合い、そうすると強い国だけが勝ってしまう。ある意味でジャッジが必要だ。それが今の国連には足りない。今日、情報革命で小さくなった地球に人々が共生するための努力や多様性を大事にするコンプレックス・システムの哲学が必要だと思う。
世界初のキリスト教国家だが。
世界初のキリスト教の国としては301年からだ。その前の1世紀からキリストの使徒タダイとバルトロマイの2人がアルメニアに伝道者として来てキリスト教が広まった。使徒から伝わったのでアルメニア使徒教会という。ギリシャ正教会やカトリックなどとは違う古いキリスト教だ。クリスマスは12月25日ではなく1月6日だ。これはキリストの弟子たちが祝ったもともとのクリスマスの日だ。儀式も違う。日本の神道の神社とも似ていて、誰でも入ってお参りができる。夏には清める意味がある水掛け祭りもある。これはキリスト聖誕前から続いている祭りでアルメニア教会にも取り入れられている。
12月1日から25日まで、横浜の山手234番館(横浜市中区234の1)でアルメニアのクリスマスを紹介する準備をしている。
歴史の古さを示す、アララト山とノアの箱舟伝説がある。
これを信じている人たちはアルメニア人より多く、聖書を読んでいる世界の人々だ。今でものあの箱舟を探す人が世界から来る。
来年9月7日に日本・アルメニア関係25年を迎えるに当たって期待することは。
私は神社仏閣を訪れたりするのが好きで、実際、高野山に泊まったり伊勢神宮にお参りしたりした。日本に関心のあるアルメニア人は多い。半面、日本では、遠いアルメニアを知らない人が多い。
これまで「未知の国アルメニア」を日本に知らせたいと紹介してきた。観光客が増え、文化的交流も始まっている。アルメニアも経済的に少しずつ良くなっており、アルメニアに来て働いてみて、アルメニアに定住したいという日本人も出てきている。
ワインブームでアルメニアのワインは有名だが、先端技術(IT)産業も盛んだ。10月28日金曜日にはジェトロ(日本貿易振興機構)でIT関係のフォーラムを行う。ビジネスやものづくりが盛んな日本からの投資を期待したい。すでに中国はアクティブに投資してきている。日本の資本や経営者にもう少しアクティブになって関心を持ってほしいと思う。