西アフリカ・サヘル地域 新IS国などできないように

山田 寛

 

 地球の裏側ではイスラム過激派のテロ・ウイルスが増殖している。

 最近特に懸念されているのが、西アフリカ・サヘル(サハラ砂漠南縁)地域のニジェール・マリ・ブルキナファソ3国国境地帯だ。IS(イスラム国)、アルカイダなどが勢力を広げ、ISが中東で支配していたより広い土地を確保する可能性すらあるという。

 先月、同地域担当の国連特別代表は安保理に報告を提出し、「テロ攻撃がかつてない勢いで増加している。今こそ対処すべき」と訴えた。昨年は兵士と民間人4000人以上が殺された。3年前の5倍以上だ。特に昨年9月以後、現地専門家によれば「どの軍陣地も席巻され得る状態」となった。

 マリで11月初め、兵士49人と仏軍人1人、中旬に兵士24人、ニジェールで12月中旬に71人、1月上旬に89人の兵士、ブルキナで11月上旬に金鉱山の作業員40人、12月のクリスマスには兵士と民間人42人が殺された。多くはISが犯行声明を出している。

 シリアやイラクにいた過激派兵士が地元ゲリラに加わり、攻撃は複雑化し強化された。政府軍陣地襲撃の一方、誘拐、通行税、麻薬、密輸、密猟、家畜略奪など多様な資金稼ぎが展開されている。中でも重要な柱が金の採掘・密輸だ。

 昨年11月、NGO「国際危機グループ」(ICG)が金関連の報告書をまとめた。8年前にサハラ砂漠沿いの長い金鉱脈が発見され、世界最貧地帯で、砂漠化、飢餓、弱体政権、避難民など多重苦を抱える3国でも近年、金採掘がブームになった。過激派集団はそれに目をつけ、金採掘場に浸透した。

 11月に襲撃されたのはカナダ企業の大金鉱の作業員だが、地域全体の産出量の半分近くが小規模・無登録の“家内制手工業”的採掘で、推計200万人以上、内職なども含めれば500万人が従事していると見られている。多くが政府管理外で、年間約50㌧、20億㌦相当が産出され、大半が密輸に、その相当部分が過激派に回っている。

 過激派には大財源で、また住民の中に浸透し、兵士を集め、爆発物訓練なども行える絶好の場所なのだ。

 ICG報告書は、3国と、サヘルの金の主要顧客の中国、スイス、アラブ首長国連邦に、管理を強化し密輸出入減らしに努めるよう呼びかけている。

 ISなどの勢力増大に対し、この地域の旧宗主国で兵士4500人を派遣しているフランスのマクロン大統領は先月、サヘルG5(3国とチャド、モーリタニア)首脳との会議を開き、①ISを主標的とし、3国国境地帯に共同軍事努力を集中、②仏軍を増派、③米軍の支援の継続を要望――することを決めた。仏軍は600人増派される。

 だが現地では、フランスが新植民地主義だとして反仏感情も広がっている。米国はアフリカ全体に兵士7000人を展開しているが、うち5000人を削減する方針という。トランプ大統領は、再選のためとにかく「米軍撤兵第1」なのだろう。過激派には追い風である。

 因(ちな)みにニジェールと南のナイジェリア、東のチャドの国境地帯でも、IS系組織がテロや残虐行為を続けている。最近もキリスト教徒11人の集団処刑や国際援助団体関係者の処刑を実行した。

 30年余り前に私は飢餓取材でニジェールを訪れた。地方の村落を通ると、住民たちが深井戸完成祝いの最中だった。遠来の旅人よ、ぜひおいしい水を飲んでほしいと言われ、ためらいながらも飲んだ。皆嬉(うれ)しそうな笑顔で拍手。貧しくても純朴でおもてなし好きな人々だった。

 そんな村々が第2のシリアになってほしくない。心からそう思う。

(元嘉悦大学教授)