15字の虐殺資料公開、韓国政府はより誠実な対応を
韓国のハンギョレ新聞によると、3月中旬、韓国大法院(最高裁)が「ベトナム戦争中の韓国軍の民間人虐殺」事件に関し、国家情報院保有の事件関連情報を公開すべしと判決した。4月上旬、国情院は初めて関連記録を公開したが、たった15字の資料で、1968年の事件発生直後に聴取した小隊長3人の名前が並ぶだけ。4月中旬、ソウル中央地裁は、被害者のベトナム人女性が昨年起こした国家賠償訴訟で、国情院と国防部に関連全記録提出を要請した。だが国情院は「すでに出した」と、事実上拒否した。
私は同戦争末期、取材に訪れた村で「韓国人が来た」と幼児に泣かれ、韓国軍はそれほど怖がられているのかと驚いた。だからこの関連のニュースは特に気になる。
韓国軍は解放戦線が頑張る中部の村々で掃討作戦を展開、約80カ所で女性・老人・子供ら9000人を虐殺し、レイプも行ったとされる。現地には慰霊廟や「怒りの碑」などが幾つも立っている。
ハンギョレは左派で超反日だが、ベトナム現地調査も行い、韓国メディアで唯一この問題に真剣に取り組んできた。
弁護団は「15字でも、初めて韓国政府保有の虐殺情報が確認された」と言う。だが、賠償訴訟で「韓国軍の仕業か不明だ」と言い続ける政府側の壁は厚い。
これまでの韓国大統領の対応はどうか。文在寅氏は18年の訪越で、「両国間の不幸な歴史に遺憾の意を表する」とだけ述べた。以前、金大中氏らも類似発言をしたが、いずれも韓国軍参戦全般に関する発言だろう。
世界の国家指導者は自国絡みのジェノサイド、戦争犯罪、人道に反する罪、過酷な植民地・少数民族抑圧などの問題にどう対応しているか。次の様に分類できよう。①過ちや非は全く認めない、②問題に触れず、曖昧にぼかして遺憾の意を表する、③非は認めないが被害者や犠牲者に同情や哀悼を示す、④明確に責任、非を認める、⑤謝罪する。
中国共産党政権は①の総代表だ。
民主主義は非を認める。最近その決断をした指導者も多いが、韓国大統領はまだ②だ。③の例は16年に広島を訪れ被爆者と抱き合ったオバマ米大統領。14年に1世紀前のアルメニア人虐殺の犠牲者に哀悼の意を表したエルドアン・トルコ大統領も一応③だが、断固ジェノサイドと認めない。
④はマクロン仏大統領。先月末、フランスが94年のルワンダ虐殺で虐殺政権側を支援した責任を認めた。フランスはまた130年もアルジェリアで過酷な植民地支配を続け、500万人以上を死なせたとされる負の歴史問題を抱えたままだが、マクロン氏は人道への罪を犯したと認め始めている。
95年のシラク仏大統領も④。ナチス占領下の仏政府が大量のユダヤ人を強制収容所に送った責任を認めた。ベルギーのフィリップ国王も④。昨年コンゴ民主共和国に、過去の植民地支配への悔悟を伝えた。
⑤は、20世紀初めのジェノサイドを認め、先月末旧植民地ナミビアに謝罪したドイツ。08年のオーストラリアのラッド首相は、先住民の虐殺や強制移住を謝罪した。カナダ政府も08年、19~20世紀に先住民同化策で酷い寄宿学校制を続けたことを謝罪、トルドー首相は19年にジェノサイドも認めた。先月にも寄宿学校跡地から215人の遺骨が発見されている。歴代日本政府の慰安婦問題対応も、客観的評価で⑤だ。
ベトナム政府が最重要級経済協力国の韓国に謝罪を要求する可能性は99%ない。慰安婦少女像と違い、「怒りの碑」の増殖もあるまい。だが甘く見てはダメだ。歴史に対し、15字以上に誠実に向き合うべきだろう。
(元嘉悦大学教授)