ウクライナ侵攻で思う 中露民兵の不気味な役割
世界がまだ大猛獣暴れるジャングルであることを思い知らされたプーチン・ロシアのウクライナ侵略。その侵略の中で見落とせないのは、下ごしらえをしてきた民兵集団=民間軍事会社(PMC)の不気味な役割だろう。PMCと中国の海上民兵。ハイブリッド戦の中の民兵カードに、一層警戒を強めなければならない。
「ロシア・スパイ網とつながる傭兵(ようへい)がウクライナで増加中」「PMC最大手のワグナー集団の要員がアフリカから東欧へ大挙移動」「ロシア国内で、ウクライナ東部の戦闘のため新規民兵集めが行われ、訓練を受けている」「フランス人数十人も加わった」。昨年末以来、そんな情報が幾つも伝えられてきた。
侵攻の前触れ=口実は、親露派武装勢力とウクライナ軍の砲撃戦。プーチン大統領は、ウクライナ軍の民間人殺戮(さつりく)を非難したが、親露派側が挑発し、相手の砲撃のフェイク情報もばらまいた様だ。そして親露派武装勢力というが、ロシアの民兵が中核で指揮、指導しているのだろう。
2014年のウクライナ東部紛争開始とクリミア併合の時からそうだった。米研究機関「ジョージタウン財団」によれば、ロシアはその時初めて民兵集団を使用した。同年春~夏に、寄せ集め民兵は「ワグナー」にまとめられた。7月にマレーシア航空機が上空で撃墜され、乗員乗客298人が死亡した。国際捜査で、撃墜責任者として親露派勢力中のロシア人3人(元情報機関員ら)とウクライナ人1人が名指しされ、欠席裁判がオランダで続いている。3人対1人というのは親露派の責任者の配分を反映していそうだ。
現在の配分も同様かもしれないが、ロシア政府はPMCとは無関係を装い続ける。
その後、「ワグナー」はウクライナで戦闘、諜報(ちょうほう)、情報戦、破壊工作、訓練などに従事してきた。そこは民兵訓練場ともなり、シリア、アフリカなどへ活動が拡大した。ロシア軍参謀本部情報総局(GRU)と強くつながり、今後とも各種工作、親露かいらい国家体制作りで、侵略を支えて行くだろう。
中国の海上民兵については、米戦略国際問題研究所(CSIS)が昨年11月、南シナ海での活動を中心に詳細な調査報告をまとめた。それによると増強開始は2013年。習近平・新国家主席が海南島・潭門を視察、潭門民兵を「他も見習うべき」と賞揚した。ツルの一声で国防白書が海上民兵強化を叫び、多額資金が投入され始めた。18年から南シナ海の中国の人工島群を補給地とし、計約300隻が大船団で展開するようになった。
船団は昨年もフィリピンの排他的経済水域に何週間も居座ったが、魚を獲(と)る様子はない。「核心的利益」の海の番人を務め、米軍艦などの航行の邪魔をし、沿岸国漁船に嫌がらせもする。民兵給料を全額もらうには年280日以上重要海域に出ていなければならない。
補助金政策も明確だ。全長55㍍以上の大きな船を長期間、問題海域に派遣すると多額の補助金が出る。魚を獲っても出ない。船主も大型武装漁船を所有したくなる。
武装漁船とは別だが、20年に中国遠洋漁業船団の調査をした英シンクタンク「海外開発研究所」の担当者は、1万6966隻という数に驚いた。
持続可能な漁業のため、中国も「20年までに遠洋漁船数を3000以下にする」と発表したのに。日米欧などは300隻以下だ。この分では武装漁船も絶対に減らないだろう。
CSIS報告は、「武装漁船の数と急展開は、南シナ海の平時の力のバランスを激変させた」と結論している。
台湾も尖閣も世界も、ロシアのPMCや中国の海上民兵から全く目が離せない。
(元嘉悦大学教授)