【社説】経済安保法案 脅威に対処し国益を守れ


半導体

 政府が半導体など重要物資のサプライチェーン(供給網)強化支援などを盛り込んだ「経済安全保障推進法案」を閣議決定した。

 覇権主義的な動きを強める中国やロシアなどを念頭に、安保上重要な物資の安定供給確保や先端技術の強化を図ることが狙いだ。脅威に対処して国益を守るため、法案の速やかな成立が求められる。

 「供給網強化」など4分野

 法案は「供給網強化」「先端技術の官民協力」「基幹インフラの事前審査」「軍事転用可能な機微技術の特許非公開」の4分野で構成されている。

 供給網強化では、半導体や医薬品など供給網の過度な海外依存が国民生活に支障を来す恐れのある物資を「特定重要物資」に指定。企業に供給計画の作成を求め、政府が有効と認定した場合に財政支援する。特定の国への依存を回避するためだ。

 例えば医薬品に関しては、沖縄県・尖閣諸島問題などで対立する中国への依存度が高くなっているという。安定供給のためには、国内での製造を支援する必要がある。

 先端技術の官民協力では、人工知能(AI)など「特定重要技術」の研究開発を促進するため、資金支援のほか官民協議会を設置する。研究環境を改善して優秀な研究者による技術情報の海外流出に歯止めをかけるためにも潤沢な資金が不可欠だ。

 事前審査は、電気、金融、航空など14業種の重要設備が対象となる。設備の導入時に安保上脅威となる部品やシステムが含まれていないか政府が審査し、サイバー攻撃で機能不全となる事態を避ける狙いがある。

 トヨタ自動車は国内の全14工場できょうの稼働を停止する。取引先のトヨタ系部品メーカーがサイバー攻撃を受け、システム障害が発生したためだ。ウクライナ侵略を受け、日本が発動した経済制裁に対するロシアの報復かどうかは不明だが、サイバー攻撃対策の強化は喫緊の課題である。

 さらに法案には、軍事転用可能な技術の特許を非公開にする制度の導入が盛り込まれた。特許庁と内閣府による2段階審査で機微な技術を指定し流出防止を図る。

 現在は特許出願から1年半が過ぎると、技術の内容を示す公報が公開され、誰でも自由に閲覧できるようになっている。日本が開発した技術を外国が悪用して日本の安全が脅かされるような事態は、何としても防がなければならない。法整備は遅きに失したと言えよう。

 法案では、民間人への罰則も規定された。基幹インフラ設備に関する虚偽届け出や、保全指定された特許技術の情報を漏らした場合には、2年以下の懲役や100万円以下の罰金が科される。

 機密資格の導入急げ

 経済安保をめぐっては、機密情報の取り扱い資格制度「セキュリティー・クリアランス(適性評価)」を導入することが今後の課題となる。

 個人情報保護の観点から慎重論も強く、今回の法案には盛り込まれなかったが、情報漏洩(ろうえい)の防止には欠かせない。政府は導入を急ぐ必要がある。