【社説】北方領土 今こそロシアの非を鳴らせ
ロシアのウクライナ侵略を受け、岸田文雄首相は日露間の懸案である北方領土問題はいったん棚上げにせざるを得ないとの考えを示した。
もちろん、決して領土返還をあきらめてはならない。日本は侵略を強く非難するとともに、今こそロシアに不法占拠されている北方領土の問題を国際社会に周知し、その非を鳴らすべきだ。それがウクライナへの連帯を示すことにもなろう。
侵略国家の体質変わらず
ウクライナでは、首都キエフ一帯や第2の都市ハリコフなどで激戦が続いている。ロシアによる攻撃で民間施設が被弾するケースも相次ぎ、兵士だけでなく民間人にも死者が出ている。ウクライナのゼレンスキー大統領は国連に、ロシアのウクライナ人に対する「ジェノサイド(集団虐殺)」の認定を求めた。国際社会はウクライナを強力に支援する必要がある。
ロシアのプーチン大統領の狙いは、北大西洋条約機構(NATO)加盟を目指すゼレンスキー政権を打倒することだ。だがウクライナは主権国家であり、自国の安全保障体制を選ぶ権利がある。NATOに対する強い不信感からウクライナを侵略したプーチン政権は報いを受けるべきだ。
岸田首相は、世界の銀行決済取引網「国際銀行間通信協会(SWIFT)」からロシアの一部銀行を排除する米国と欧州連合(EU)の新たな制裁に日本も参加すると表明した。さらに、プーチン氏を含むロシア政府関係者らの資産を凍結することも明らかにした。いずれも当然の対応である。
日本はこれまで北方領土問題を動かすため、ロシアとの共同経済活動に向けて協議を進めてきた。しかし、侵略国家のロシアと経済協力を行うわけにはいかない。日本は協議の中止をロシアに伝えるべきだ。
北方四島は日本固有の領土である。だが旧ソ連は第2次世界大戦末期、当時有効だった日ソ中立条約に違反して対日参戦し、日本のポツダム宣言受諾後に北方四島を不法占拠して日本人島民を追い出した。ソ連時代も現在のロシアも侵略国家の体質は変わっていない。
北方領土占領と同様に、ロシアによるウクライナ南部クリミア半島併合や東部の親ロシア派支配地域の独立承認、そして今回の侵略は全て国際法に反している。日本は「法の支配」を揺るがすロシアへの批判の先頭に立つ必要がある。
ロシアは2020年7月の憲法改正で「領土割譲禁止」条項を明記するなど強硬な姿勢を示す一方、北方領土の軍事拠点化を進めている。国後島、択捉島には北海道東部まで射程に入れる地対艦ミサイルが配備され、日本の安全を脅かしている。
正当化できぬ不法占拠
ロシアが北方領土返還を強く拒むのは、返還後に米軍施設が設置されることを恐れているためだ。しかし、それで不法占拠を正当化することはできない。
日本が米国と同盟を結んでいる以上、米軍は日本の同意を前提に日本国内に施設を設けることができる。自国の都合で国際法に違反し続けるロシアを容認するわけにはいかない。