香港紙発行停止、言論の自由を潰す中国の暴挙
中国が香港の「一国二制度」を無視して制定した国家安全維持法(国安法)によって、言論の自由を本分とする新聞社「蘋果日報」(リンゴ日報)を発行停止に追い込んだ。中国に不都合な言論活動を取り締まり、報道の自由を力ずくで潰(つぶ)す中国の暴挙は目に余る。
「一国二制度」が骨抜きに
昨年、国安法が香港政府・立法会の頭越しで中国の全国人民代表大会(全人代)によって制定され、一方的に施行されて以来、目に見えて香港の事態は悪化している。英国から中国への香港返還に伴い民主主義による自治を香港に認めた「一国二制度」が骨抜きにされ、その影響は国軍クーデターが起きたミャンマーにも波及している。
これまで香港のマスコミには「大公報」「文匯報」など中国寄りの新聞社が存在する一方、中国に対しても批判をするリンゴ日報が発行されていた。
自由な言論活動の下で有意義な中国情報を発信してきたリンゴ日報の存在は、親中派に有利な選挙制度の下でも立候補した民主派と共に「一国二制度」の国際公約において重要なことだった。
ところが昨年の国安法導入後、中国と香港はリンゴ日報に対して不当な圧力を加えることで世論を封じてきた。さらに事実上、民主派に立候補を認めない選挙制度の変更は「一国二制度」を破壊し、民主主義社会に敵対した行為である。
当局の圧力は執拗(しつよう)な起訴、拘束によってなされている。リンゴ日報をめぐっては、創業者・黎智英氏を昨年12月に起訴・拘束した。いったん保釈したものの、再び勾留して圧力をかけていた。
黎氏は2019年のデモ集会をめぐる理由で、4月から5月にかけて実刑判決が言い渡されたほか、国安法によって「外国勢力と結託し、国家の安全に危害を加えた」として香港保安局から資産を凍結された。
今月には、同紙を発行する壱伝媒(ネクスト・デジタル)の最高経営責任者(CEO)の張剣虹氏やリンゴ日報編集長の羅偉光氏ら5人を、やはり「外国勢力と結託し、国家の安全に危害を加えた」との国安法違反で逮捕。家宅捜索で取材資料・物品を押収し、リンゴ日報、印刷会社など関連3社の資産計1800万香港㌦(約2億6000万円)を凍結した。このため事業を継続できなくなり、発行停止を余儀なくされた。
民主派運動家や報道の自由を有する新聞社が不当な圧力を加えられる危機感から国際世論に訴える言動を行うことは、防衛本能とも言える。また、国際社会の多くの国が中国の人権問題を批判しており、香港における言論の自由や民主派の立候補を実際上認めない、不公平極まる選挙制度への改変について深刻に憂慮している。
恐怖政治は認められない
多くの市民がデモをする中で19年に香港で区議会議員選挙が行われ、直接選挙452議席のうち民主派が8割を超える388議席を占めた。
この圧倒的な民意を無視し、中国は見境なく国安法による逮捕権で恐怖政治を行っている。到底認められないものだ。