新型コロナより恐ろしい反企業ウイルス


韓国紙セゲイルボ

文政権、言葉だけの規制改革

 新型ウイルスよりさらに恐ろしい“ウイルス”に韓国企業が晒されている。反企業という名の“悪い政治”だ。新型コロナウイルスはまだ国内に死亡者を出していないが、反企業ウイルスは企業倒産が列をなすほど実際的な脅威になっている。

文在寅大統領

1月14日、ソウルで記者会見する韓国の文在寅大統領(EPA時事)

 文在寅大統領は昨年、英国の「赤旗法」を例に挙げて規制改革を促した。だが悪性の規制はそれ以後もウイルスのように繁殖を続けた。赤旗法は1865年、自動車の登場で馬車業者が滅びるとして、赤い旗降りを先行させ、自動車が馬車を追い越しできなくさせた法だ。同法で馬車の寿命はしばらくは延びたが、英国の自動車産業はライバル国に後れを取ってしまった。

 全く同じことがいま大韓民国で起きている。タクシーの配車サービス「タダ」(韓国語の「乗る」の意味)を禁止する時代錯誤的な「タダ禁止法」が国会の最終通過手続きの一歩手前まできている。「タダ」の代表は先週の結審公判で懲役1年の求刑を受けた。馬車よりはやく走れば処罰する赤旗法と何が違うのか。

 赤旗法第2弾まで頭をもたげそうだ。配達アプリケーション「配達の民族」(「配達」が「倍達」=朝鮮の美称と同音)売却に政界が介入し始めた。与党、共に民主党の乙支路委員会は公正取引委員会の「配達の民族」と「デリバリーヒーロー」間の企業結合審査を控えて、買収合併(M&A)にブレーキをかけたのだ。

 合併で独占の憂慮がなくはないが、M&Aは無限競争時代で生存と跳躍のための必須戦略だ。国内自営業者の保護にこだわれば、海外進出とM&A市場の活性化は水泡に帰する。

 より大きな心配は革新生態系の破壊だ。「経済学の父」アダム・スミスが強調したように、私たちがおいしいパンを食べることができるのはパン屋の主人の善意のためでなく利潤追求のためだ。市場参加者の利益を保障することが産業発展の基礎だという話だ。

 韓国でユニコーン企業(企業価値1兆ウォン以上の非上場スタートアップ企業)が出て来れないのは、こうした利益のふたが詰まっていることが大きい。もしスタート企業の「配達の民族」と「タダ」が大ヒットするなら、数多くの青年たちが創業に飛び込む“ファースト・ペンギン効果”を収めることができる。

 文大統領は今年の新年挨拶(あいさつ)会で、「新産業の成長を遮る既得権規制をより一層果敢に革新していく」と叫んだ。政府部署で初めての業務報告ではユニコーン企業が出てこられるように積極的に支援することを約束した。百万の言葉より一つの実践が重要だ。直ちにスタートアップ企業の出発を防ぐ“赤旗”を片付けなければならない。革新はその後のことだ。

(裵然國(ペヨングク)論説委員、2月18日付)

※記事は本紙の編集方針とは別であり、韓国の論調として紹介するものです。

ポイント解説

躍動的な韓国はどこへ

 「規制」といえば日本の役所の得意とするところだが、韓国も似たような状況にある。しかも革新政権で旧態依然とした規制を振り回す権威主義が時代の流れをせき止め、若い起業家の可能性を押さえつけている、という記事である。

 ここで紹介されているタクシー配車サービスや配達アプリケーションは時代の要請に応え、さらにその1歩先を行くサービスだ。韓国はインターネットの導入でも、いち早くインフラを整備し、「世界一速い」ネット社会を築き上げた。これは「パリパリ」(早く早く)というせっかちな民族性も手伝って、新しいものへの関心と取り入れが早いことで可能となった。だから、新奇なものへの取り組みは早いはずだ。

 そこにさまざまな規制をかけて、結果として成長の芽を摘んでいるのが革新政権であるというのは意外でも何でもない。わが国でもそうだが、革新政党・勢力ほど、その体質は保守的であり守旧的で変化に抵抗するというのは共通している。

 さらに韓国はいったん論争となると、事実や合理性よりも、まず自説を通すことが優先される傾向が強い。かつて豊臣秀吉出兵の動きを探るために日本に派遣された使節の正使と副使が派閥が違ったことで正反対の報告書を上げ、派閥の力関係で「侵攻なし」の報告書が採用され、結局、防衛策を講じず豊臣軍の侵入を許した、という苦い歴史的教訓がある。

 それを生かせば、規制や既得権を取っ払い、ユニコーン企業の出現を妨げている既成の権威を外すべきなのだが、歴史の教訓を生かせない、というのも韓国の特徴の一つではある。

(岩崎 哲)