アマゾン熱帯雨林 失われる温暖化抑制機能
 世界最大の熱帯雨林として知られるアマゾン熱帯雨林。昨年8月に発生した大規模な火災は、森林を焼き尽くす巨大な炎の映像が世界に衝撃を与えた。最近の研究では、アマゾン熱帯雨林が温暖化抑制機能を失いつつあるとの報告も出ており、早急な対策が求められている。
(サンパウロ・綾村悟)
火災と乱開発で崩壊進む
昨年、大規模な森林火災とそれによる森林消失が世界の関心を集めたアマゾン熱帯雨林だが、近年、懸念されているのが、熱帯雨林崩壊の「転換点」が近づいていることだ。森林消失が一定の量を超えると、アマゾン熱帯雨林が自己再生能力を失い、森林崩壊とこの地域の気候変動に不可逆的な変化をもたらすというものだ。
その転換点は、熱帯雨林の20~25%が消失することで起こり得るとの試算が出ており、この数十年間の開発などにより、すでに17%の森林が失われているとの観測結果もある。
こうした中、ブラジルの国立宇宙研究所(INPE)の研究チームが今月初め、アマゾン熱帯雨林の20%に当たる地域で、すでに二酸化炭素(CO2)の排出量が、吸収量を上回っているとの衝撃的な研究結果を発表した。
アマゾン熱帯雨林は、地球上のすべての熱帯雨林の約半分に相当すると言われ、その面積は南米7カ国にまたがる形で約550万平方㌔㍍にも達する。日本の領土面積(領海除く)の実に10倍以上にもなる。つまり、INPEの研究結果が正しければ、日本全土がすっぽり入って余りある熱帯雨林が、すでにCO2の吸収力を失っていることになる。
一方、アマゾン熱帯雨林内には多様な動植物相もあり、CO2吸入量が排出量を劇的に上回っているわけではない。ただし、焼き畑等の違法伐採で失った森林跡からは、地中などに閉じ込められていた大量のCO2が排出され続けることが分かっており、森林破壊がこのまま続けば、10年後にはアマゾン熱帯雨林から排出されるCO2排出量が2倍近くに増加するというのが専門家の予想だ。
現在、アマゾン熱帯雨林が吸収しているとされるCO2は、年間約12億㌧。これは、CO2排出量世界第5位の日本が1年間で排出する総量に相当する。アマゾン熱帯雨林の破壊と消失が続き、吸収できる二酸化炭素が今後10年で半減した場合、世界各国による排出量規制に向けた努力など到底及ばない数字となることが分かる。
それだけに、欧州を中心とした世界各国と環境保護団体は、ブラジル政府がこれまで以上にアマゾン熱帯雨林の保護に関心と努力を払うことを求めている。アマゾン熱帯雨林の約6割が属するブラジルの協力抜きではアマゾンの保護は不可能だからだ。
ただ、温暖化対策の国際枠組み「パリ協定」に批判的なボルソナロ大統領は、アマゾンの開発と地域の経済成長を優先している。昨年のアマゾンにおける森林火災に際し、欧州や環境保護団体からは「対応が遅い」「開発を止めて森林保護を最優先とすべきだ」などと批判を浴びた。
ボルソナロ氏は、あくまでアマゾン熱帯雨林の「持続的な開発」が必要だと主張。今年1月には、熱帯雨林保護と持続的開発を目的とした「アマゾン評議会」の設立を発表し、副大統領の直轄として省庁を超えた権限を持つ組織とする意向を示した。
ただし、持続的な開発目標は、過去の政権も実現を目指したことがあるが、具体的な成果にはつながっていないのが現状だ。それだけに、違法伐採や農牧地の開発、資源開発をめぐる利権、さらにはアマゾン周辺に住む多くの農民の生活向上など、熱帯雨林の保護と経済成長の両立が一筋縄ではいかないことを示している。











