9月入学、21年度導入を検討
新型コロナウイルス感染拡大の影響による休校の長期化を受け、政府は始業・入学時期を秋にする「9月入学」の導入を検討している。学習の遅れを取り戻し、国際化を進める利点もあるが、導入には30本以上の法改正や教育費の増加など課題は山積している。(政治部・岸元玲七)
文科省2案 1年で一斉に移行か5年かけ段階的に
30本以上の法改正や教育費の増加… 自民内から慎重論も
政府は25日、首都圏1都3県と北海道の緊急事態宣言を全面解除した。東京都は今後、都立学校の分散登校を週1日から段階的に進めていく。21日に緊急事態宣言が解除された大阪府は休校中の府立学校を6月1日から再開させる。岩手県や鳥取県など、感染が拡大しなかった地域では5月の連休明けからすでに再開しており、こうした動きは自治体ごとにばらつきがある。3月の一斉休校要請から約3カ月が経過し、学習の遅れを取り戻すには詰め込み教育になりやすく、子供や教員に負担がかかるとの指摘もある。
文部科学省は、2021年9月から実施するとした場合の2案を、政府の関係府省の事務次官らによる会合で提示した。来年9月に小学校に入学する1年生の対象範囲を、①2014年4月2日~15年9月1日生まれの17カ月分の子供が一斉に入学する②就学時の枠組みを現行の12カ月から13カ月分に拡大して1年ごとに1カ月ずらし、5年かけて移行する。この場合、26年からは12カ月学年に戻す。
「一斉入学案」の場合、17カ月分の児童が入学するため同学年で月齢差が生じ、人数が通常の約1・4倍に膨らむ。英オックスフォード大の苅谷剛彦教授らの研究チームによると、来年9月入学を導入した場合、全国の待機児童が19年の約16倍となる約26万5000人に上ると推計。これに伴い教員数約2万8000人が不足し、家庭での教育費など追加費用が増加するとも指摘した。
「5年移行案」は、新入生数の急増を分散できるが、範囲が異なることで複雑な制度となり、混乱が予想される。
また、政府は来年9月入学の小学1年生を4月に「仮入学」させ、9月に正式入学させる案も検討している。萩生田光一文科相は19日の会見で「秋季入学は(感染拡大が)長期化した際の対応策の一つであり、ハイブリッドに方針を決めていかないといけない」と述べた。
一方、自民党からは慎重な対応を求める声が強まっている。小林史明青年局長らが22日、「拙速な議論に反対する」との要望書を岸田文雄政調会長に手渡した。提言は、小林氏が呼び掛けた中堅・若手議員ら約60人を中心にまとめた。制度移行には30本以上の法改正が必要であり、移行する際に家計の授業料負担増など課題を指摘。子供たちの学習の遅れは夏休みや土曜日を有効活用し、12カ月分のカリキュラムを1カ月短縮することも提案した。
安倍首相は25日の会見で、9月入学について「有力な選択肢の一つだ」とした上で、「社会全体の影響を見極めつつ慎重な検討をしなければならない」と言及し、拙速な議論を避けるべきとの姿勢を示した。
今回の9月入学の議論は、野党や一部の知事らが声を上げたことがきっかけとなり、小池百合子都知事や吉村洋文大阪府知事らも賛同した。だが、自民党の「秋季入学制度検討ワーキングチーム」(座長・柴山昌彦前文科相)が25日に行った全国知事会や全国市長会などのヒアリング結果によると、来年度からの移行に「慎重または反対」する市区長が80・4%に上ったという。
文科省は15日、高校・大学入試について試験の範囲や方法を工夫し出題するよう学校側に通知した。子供の学びの場を保障し、当事者である学生、特に受験生が抱える不安を払拭(ふっしょく)できるような結論に導くための議論が求められる。