SDGsで観光地づくり、働き・遊び・学びを発信
福島・裏磐梯地区、「ワーケーションの聖地」を目指す
福島県北部の高原リゾート裏磐梯(うらばんだい)地区で、旅先で働く「ワーケーション」の先駆的な取り組みが進んでいる。観光施設と共に、持続可能な開発目標(SDGs)と教育旅行を組み合わせた観光地づくりに力を注ぎ、働く環境の整備や余暇の充実に加え、「学習の場」としての魅力を発信し、ワーケーションの聖地を目指す。(市原幸彦)
裏磐梯観光活性化協議会の取り組み、SDGsを切り口に
日光国立公園、磐梯朝日国立公園と、自然環境に恵まれたこの地域で、事業に取り組んでいるのは北塩原村の宿泊施設などでつくる裏磐梯観光活性化協議会だ。観光庁の実証事業の一環としてワーケーションの取り組みを本格化させたのは昨年秋。皆川大樹さん(44、ホテル・アクティブリゾーツ裏磐梯営業部長)が中心となって事業内容を企画し、実現させた。
事業の柱に「学習の場」を据えているのが特徴の一つ。北塩原村のホテル・グランデコリゾート内には、脚本家の倉本聰さんが考案した地球の歴史や森林環境の大切さを伝える「富良野自然塾」の裏磐梯校(2018年開校)がある。地球誕生から46億年の歴史を460㍍の自然道で解説する「地球の道」など、自然やSDGsを学ぶプログラムが体験でき、ワーケーションのメニューの一つにもなっている。
皆川さんはコロナ禍が始まってすぐに「働き方が変わる時代が来る」と思い付き、SDGsをこれからのトレンドとして意識し始めた。その市場規模を調べたところ、他の産業に比べ、桁違いの大きさであることが分かった。「今後、参加する産業も多くあるはずで、流れは絶対に来るという確信がありました」(皆川さん)という。
2年前に、グランデコリゾートで開校していた「富良野自然塾」に、いち早く皆川さんらホテルの関係者で行ってみた。食べずに捨てられる食品ロスを抑えるロハス(健康や環境問題などを重視するライフスタイル)の食育環境プラグラムをSDGsの要素として組み合わせ、フードロス問題や食材が地球環境に与える影響などを利用者に考えてもらうことに努めた。2社協同で販売を始めたことがSDGsの活動を始めるきっかけだった。
2020年度からの新学習指導要領に、「SDGs社会に対応できる人材を育成しよう」という内容が提示され、2社協同の活動への需要が飛躍的に伸びることになった。
協議会では、自然豊かな所で心身共に良い状態になることができ、SDGsを切り口に環境保全や社会貢献を学ぶことができるということであれば、研修旅行に最適な場所として認めてもらえるのではないか――。この二つの軸を融合させた新しい旅行モデルの構築実現を目指している。
親子で参加できるツアーも人気、連泊しても飽きさせない
社会人ばかりでなく親子で参加できる2泊3日のツアー(3種のルートがある)も人気だ。こだわりの一つが「連泊しても飽きさせない工夫をすること」。イベントを切れ目なく入れる。早朝のヨガから始まり、日中は野菜収穫体験や環境保全が学べるトレッキング、夜は星浴体験や、近隣にある諸橋近代美術館でキッチンカーの出店やライトアップを企画した。ホテルの食事に飽きた場合には、周辺飲食店のテークアウトメニューを部屋に届けるサービスも提供した。
参加者からは「家族一緒に楽しめて学習もできる」「自然環境を活かした豊富なコンテンツを楽しみながら、自然との共生、環境保護について学ぶことができるツアーだった」と好評だ。皆川さんは「これらのイベントを充実させ、企業からワーケーション候補地に選ばれるモデルをつくりたい」と意気込む。自然の中をジョギングしながらゴミ拾いを行う「プロギング」にも取り組み始めた。参加者への協力のお礼には、地元で使える商品券を渡している。
「心身共に幸せになるワーケーションの考えの下、裏磐梯の森の中でリラックスしながら過ごし、参加される方に気持ちよかったと思っていただけるのが一番。ワーケーションは、自然のある所に出張するという考え方だ。地元の活動に参加したり、地域の人と出会って話をしたり、楽しみがあることで、何かヒントを持ち帰る。それが将来の暮らしやご自身の活性化につながるのだと思う。ワーケーションから地域への経済効果が出てくる仕組みづくりも考えていきたい」と今後を見据えている。