デンマーク コロナ規制を全面解除、80%超がワクチン接種

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政府と国民の信頼関係醸成で可能に

 北欧デンマークで10日、全ての新型コロナウイルス規制が解除された。デルタ株の感染が急増している他の欧州諸国を尻目に、同国政府は「新型コロナは歴史となった」と豪語する。規制解除を支えているのは80%以上のワクチン接種率だ。今回の決定はコロナ対策成功のパイオニア的勝利宣言か、それとも危険な冒険に終わるだろうか。
(ウィーン・小川 敏)

仏南部マルセイユで、新型コロナウイルスワクチン義務化や「衛生パス」に反対するデモ=7月24日(AFP時事)

仏南部マルセイユで、新型コロナウイルスワクチン義務化や「衛生パス」に反対するデモ=7月24日(AFP時事)

 デンマークの感染対策の中心的人物、ホイニケ保健相は、「国民はマスクなしで電車に乗り、コロナ検査の陰性証明書などなくてもカフェに座ってコーヒーを飲める。10日を期してコロナ規制は完全に解除され、新型コロナはもはや危険な感染症とは見なされなくなる」と強調した。多くの人が集まる集会やイベントも規制なしで開催できるようになる。サッカーの試合も開放され、「コロナパス」と呼ばれるワクチン接種証明証を提示する必要もなくなる。

 他の欧州諸国は「デンマークに続け」と国民にワクチン接種を呼び掛けている。オーストリアのクルツ首相は8日、記者会見で、デルタ株の新規感染者が増加してきたことを受け、3段階のコロナ規制に関する計画を公表したが、その際「わが国はまだデンマークのようにワクチンの高接種率に至っていない」と指摘し、「わが国もデンマークのような接種率を達成するならば、コロナ規制の解除も可能だ」と説明している。

 デンマークの12歳以上のワクチン接種率は他の欧州諸国を上回り、2回以上の接種率は「80%以上」。他の国では新規感染者が増加しているが、デンマークではコロナ規制の緩和にもかかわらず増加せず、8日現在、集中治療室の患者は21人に留まっている。

 同国の現在の新規感染者は主に子供や若年層に多く、大多数は重症化していない。60歳以上の高齢者の接種率は96%だ。新学期が始まったが、「生徒の中に感染者が出たとしても、学校やクラスを閉鎖せずに授業を続行する」方針だ。

 デンマークのコロナ対策は最初から一貫していたわけではなかった。昨年3月、他の欧州諸国に先駆けて厳格なロックダウン(都市封鎖)を実施し、学校、文化施設などを閉鎖し、労働者は自宅勤務を強いられた。6月に入り、マスク着用が解除されたが、その後、新規感染者数も増加傾向にあった。それを激変させたのは、ワクチン接種が進んだことだ。

 他の欧州諸国でもワクチン接種は進められているが、デンマークのような高接種率には程遠い。ワクチン接種に反対する国民が多い上、政府のコロナ規制への強い不満、反発があるからだ。

 デンマークの場合、国民はワクチン接種を勧める政府の要請を積極的に受け入れている。デンマーク当局は今春、副反応を懸念して、アストラゼネカとジョンソン・アンド・ジョンソンのワクチンの接取を中止した。政府はワクチン接種への国民の懸念の声を吸収し、迅速に対応している。デンマークのワクチン接種率が他の国に比べて高い最大の理由は、「政府と国民の信頼関係が強いからだ」(オーストリア国営放送)という。

 同じ北欧のスウェーデンでは当初、感染を自然に委ね、「集団免疫論」に基づき、コロナ規制を放棄したことがあったが、感染拡大で対策は修正を余儀なくされた。

 ドイツの代表的ウイルス学者のクリスティアン・ドロステン教授(シャリテ・ベルリン医科大学ウイルス研究所所長)は、「ワクチンのない状況で集団免疫政策を推進することは非倫理的であり、医学的、社会的、経済的にも危険性が非常に高い」と集団免疫論に否定的だ。

 デンマークの規制解除宣言は、他の欧州の国民に大きな希望を与えている。対策が奏功するかどうか、現時点では判断できない。無数の変異株に変化するため、既成のワクチンの有効性が問題となるからだ。

 ただ、デンマークのワクチン接種率の高さは他の国にとって大きな教訓となるはずだ。新型コロナを含む感染症防止の鍵は「政府と国民の信頼関係」にある。